CheRish Brun.|チェリッシュブラン

私のごきげんな毎日を送るライフスタイルマガジン

魔法の香り手帖 ( 9 )

パフュームコンシェルジュ YUKIRINが綴る香りが紡ぎ出すストーリー。
毎月第3木曜日更新

魔法の香り手帖
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Magical Garden

その時、オズマ姫は細い顎を指先でトントンと叩きながら頭を巡らせていた。 魔法の絵の中に移るのは、地下に住むノームたち。地底からオズまで長いトンネルを掘り、平和なオズの国をわが物にしようと進軍しているさなか。恐ろしく哀しい光景。今すぐ良い方法を考えねば、オズマが統治するオズの国はあっと言う間に荒らされてしまう。誰も傷つけず、傷つかず、解決が望まれた。 薄いエメラルド色の衣の裾をふわりとなびかせながら...
YUKIRIN
魔法の香り手帖
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今宵、チュベルーズと踊ろう

その日の彼はずっとそわそわとして、仕事もおぼつかない状態だった。使い古されたエプロンのポケットには、小さく折りたたんだ紙が1枚。何度も読み返しすぎて、シワと手垢が滲んでいる。 「ボケッとつっ立ってんじゃないよ!ほら、お客さんだよ!」 叔母に小突かれて、慌てて花のバケツを床に降ろす。デルフィ二ウムとオンジウムが束になって揺れる。彼は何種もの花を荷台に積み始めた。 市場で叔母の花屋を手伝って1年くらい...
YUKIRIN
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香りたちの婚礼

やわらかな陽射しが漂うサントロぺの海辺で、ひとりの花嫁が砂浜を歩いていた。 裸足で砂粒の温かさを感じながら、1歩、また1歩と進んでゆく。海の気泡たちが次々、シュワッと祝福の音を立てる。 こんな素晴らしい日には、華美なドレスは要らない。オーガニックコットンで作られたシンプルで仕立ての良いワンピースに「Voile Blanche」。それだけがいい。それが心地いい。野生の花々と、潮風のノート。耳の上に挿...
YUKIRIN
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若草の頃

深呼吸と共に目を開くと、まばゆいばかりの緑が広がっていた―。 新緑の季節、やっと休みを合わせることができた私たちは、束の間のバカンスを楽しむために植物の生命力に満ちた火山島を訪れることにした。日常の疲れを忘れリフレッシュに期待を込めて。 それなのに、私たちといえば喧嘩をしていた。私が出がけに身に着けようとしていたボタンカフスが、引出しからすっかり消えていたのがきっかけだった。妻へ尋ねると知らないと...
YUKIRIN
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あなたと出会う香りたち

白いシャツをサッと翻し羽織ると、母が用意してくれた細いストライプのネクタイを締めた。まだ何となく慣れない窮屈さ。しかしそれと同時に、これから出会う「仕事」に高まる気持ちを抑えきれず、彼は肩を上下させながら大きく息を吐いた。 僕の第一希望の企業は学生に人気かつ採用数が少なく、また狭き門の割には、筆記テストに面接が1回だけ。面接では自分が入社してできることを自由に話していいと言われた。制作の現場で作品...
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ある日のミモザについて

風に乗って彼らが鮮やかに顏を出す。それは春。それはミモザの季節。 ―Morning― 懐かしい穏やかな朝日、誰もが感じる温かな安らぎ。じゃれる白うさぎの鼻先をくすぐるミモザの花が、黄色い「わたぼこり」のようにふわりふわりと上下する。芽吹き始めた庭の緑たちは苔やシダを地面に這わせ、幸せを運ぶメヘンディのように広がっていた。 この数か月、気持ちを固く重くさせるような忙しさや出来事が、自然の美しさに目を...
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くちなしにくちづけを

リビングから、ショパンのピアノが流れている。切ないけれど大好きな曲。 私はバスタブに身体を沈めながら目を閉じて、様々な物語を想像する。 ディコンが見つめる視線の先には、赤いチョッキを着たような模様のコマドリと楽しそうに話すメアリ。10年閉ざされていた荒れ果てた秘密の花園で、僕とメアリは誰にも内緒で土を起こしたり、種を蒔いたりしている。庭仕事が楽しいのか、病弱だった彼女も、バラ色の頬を取戻し沢山笑う...
YUKIRIN
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ある男と香りの物語

港町にあるアイリッシュパブのカウンターで、その男が胸元のポケットに手を入れた瞬間、私は身構えた。武器かと思えば、男の手にはポルトガル製のコルクキャップの小さなガラスボトルが握られていた。ボトルに小さなスティックが詰まっている。 DANESONの「No.22 BOURBON」は男にとって、葉巻と同じくらいこだわりの品らしい。良質な白樺の木にミントやレモンなど様々なフレーバーが染み込ませてある楊枝は、...
YUKIRIN
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香りがくれる贈り物

12月のメリーゴーランドを走る馬たちの鼻先には、美しい香りの贈り物がぶら下がっている。ある馬の鼻先にぶらさがる、赤い缶のギフトボックスを私は手に取った。 その小瓶からこぼれ落ちた香りは、ペンハリガンからの贈り物。香りもボトルも慎ましやかで清廉だ。今日はどの小瓶を楽しもうかと、リップカラーを変えるように香りを手のひらに乗せてみる。 最初に、マスタードイエローのタッセルがついた小瓶を少し開き、香りを確...
YUKIRIN
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モノトーンの足音

深夜にコツコツ…と、誰かの足音が近づく音で目が覚めた。 寝室の扉のすき間から漏れる仄かな光をたよりに、そっと部屋を抜け出すと、そこには光と影、白と黒。色の無い世界が広がっていた。 黒々とした木のふもとでは燃えさかる薪の炎が白く揺らめき、空の星たちははしゃいで着飾り、シャンデリアのようにピュアな光を放つ。 対岸に一人の少女が見える。霧がベールのようにふわふわと少女の周りを揺れながら浮遊している。次第...
YUKIRIN
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秋の月夜は物語と香り

日に日に長くなる秋の夜。物語を開けば香りがほのかに匂い立つ。 ジョルジュ・サンドの小説「愛の妖精」には、ルックスに恵まれず生まれ育った娘ファデットが登場する。村で疎まれているお婆さんの孫娘であるため、彼女も村では嫌われ冴えないと陰口を叩かれ、男の子にも避けられていた。しかしながら、夜の洞窟の中身の上話を語った時は、彼女の外見を洞窟の闇が隠し、洞窟に響きわたる美しい声や、彼女の内面の素晴らしさが、本...
YUKIRIN
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天に香をくゆらせて

お香の楽しさを知ったのは、大人になってからだ。 子供の頃は、匂い玉や液状の香水に夢中で、お香は「線香」の印象が強かった。学生の頃は、謎めいた「インセンス」を自宅で焚く友人も居たが、私はそれほど得意ではなかった。得も知れぬ甘さが頭を痛くさせた。 しかしながら、お香にも良し悪しがあると大人になって知った。良質なものは格別であり、また和という枠に限ったものだけでもない。意外にも「楽しみたいと思えば、いか...
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