その時、オズマ姫は細い顎を指先でトントンと叩きながら頭を巡らせていた。
魔法の絵の中に移るのは、地下に住むノームたち。地底からオズまで長いトンネルを掘り、平和なオズの国をわが物にしようと進軍しているさなか。恐ろしく哀しい光景。今すぐ良い方法を考えねば、オズマが統治するオズの国はあっと言う間に荒らされてしまう。誰も傷つけず、傷つかず、解決が望まれた。
薄いエメラルド色の衣の裾をふわりとなびかせながら、オズマは自分の宮殿の中で一番お気に入りの庭へ出た。妖精たちが飛ぶ羽音と、羽から舞う金色の粉が、緑豊かな庭に広がっている。
オズマが指をぱちんと鳴らすと、妖精たちはサッと飛んでゆき、数々のハーブや花を手に持って現れ、次々にバスケットに投げ込んでいく。あっと言う間にバスケットは一杯になった。ミント、マジョラム、セージ…どれも清涼感に溢れたハーバルな香り。
バスケットにふっと息を吹きかけると、ハーブは一瞬で魔法の香水「シャルム&フォイユ」に形を変えた。
彼女はその香りを霧を纏うように全身に匂わせながら、豊かな金色の髪を揺らしそっと部屋に入っていった。
素敵なアイデアを実行する時がきたのだ。
オズマはあっと言う間にはその魔法をかけた。地下のトンネルにほこりを沢山送り込んだのだ。喉がカラカラになったノームたちは、地上に出た途端、目の前に現れた泉に飛び込んで、沢山水を飲んだ。その途端、「何もかも忘れてしまった」。
その泉の水は「忘却の水」と言われ、少しでも口にした者は全てを忘れ、ただ幸せな気持ちだけが残る。悪者たちは邪悪な気持ちをさっぱりと忘れ、ニコニコと微笑んで立っていた。
オズマは大切なオズの人々と大地を、争うことなく守れたことに喜びを感じながら、また窓を開け庭へと出ていった。
森に住む魔女は真夜中、自分の庭からひそひそと話す声を聴いた。
「この窓はマカロンとキャンディよ。食べられるわ、ヘンゼル。」
「ドアノブはチョコレートで出来ているよ、グレーテル。」
誰かが自分の家を「食べている」。そう気づいたのはそっと窓から覗いた時だった。凛々しい顏をした若い青年と、そばかすが目立つ髪の長い女の子。彼らはまさに私が魔法で建てたお菓子の窓枠やドアをちぎって、むしゃむしゃと食べているのだ。
その家は、子供たちが森で迷った時、飢えたりしないようにと魔女が懸命に作ったものだった。(溶けないドアノブを作るのがどれだけ大変だったか!) 若い男女が家を「つまんでいる」のを見て腹を立てた魔女は、ある事を思いついた。
それは、お菓子の家を食べた男女は「永遠の片思いに落ちる」という魔法。苦しい恋は特別な罰だ。自分の想いを受け入れてもらえない、伝わらないジレンマ。
その魔法を解く鍵は、「ジャスマン&アンジェリック」。その香りをひと吹きするだけで、つらい片思いはシベリアのアンジェリックとエジプトのジャスミンの香りがする相思相愛へと姿を変えて、力強く美しい幸せな恋となる。
いじわるな魔法を思いついた魔女はにんまりと微笑んだあと、寝息を立てはじめた…。
片思いにお悩みのあなた、気づかぬうちに魔女のお菓子の家を食べたのでは?
ここだけの秘密。早く香りを「ジャスマン&アンジェリック」を纏って魔法を解いて。
小鳥は、童話になぞらえた2つの物語を語り終えるとふわりと飛び上がり、黄金色に輝く夕日に照らされた庭の上空を漂った。色とりどりのスイートピーが小鳥を見上げるように顔を傾けている。
まるで小鳥の分身のように1匹の蝶が現れ、どこからともなく庭をひらひらと飛び回りはじめた。蝶は羽根を煌めかせながらしばらく上下に揺れ続け、やがてスイートピーの花びらにふと留まったかと思うと香水に姿を変えた。
庭に育つ花々を抱えた主(あるじ)は、そっと香水を拾い上げ「Papillon et printemps」と名づけることにした。春の夢を見た蝶は、夏に大胆に飛び回り、またじっと冬を越え穏やかな春を待つ。物語はずっと繰り返されるのだ。
Magical Garden。それは誰しもの心にある魔法の小部屋。
シニカルな毎日に疲れ、大人はだんだんとその場所を忘れてしまう。
時々ひとりになって、子供の頃見た夢、草原の匂い、吹き抜ける風を思い出そう。ノスタルジーは魔法の道へとつながっている。私はそう信じる。
香りが記憶を呼び覚ますように。
【掲載製品】
■The Different Company 「シャルム&フォイユ」90ml ¥17,000+税 / 株式会社フォルテ tel.0422-22-7331
■Aoyama Flower Market 「Papillon et printemps(パピヨン エ プランタン)」(50ml / ¥2,500+税) / Aoyama Flower Market Tel.0120-418-716
■アトリエ・コロン「ジャスマン&アンジェリック」30ml ¥20,000+税 / 株式会社フォルテ tel.0422-22-7331