分業ではない良さと大変さ
――卒業されてからは、企業で修行されたのですか。
いえ、1人で靴づくりを始めました。まずは靴メーカーなどに入社して、仕入れや営業のノウハウを学ぶほうがよいのかもしれません。ですが私は将来独立を考えているのに、入社試験に受かるために「ずっと勤め続ける」と言うのには抵抗があって。また、会社に属するということは、その会社の方針に従って仕事をしなくてはならないので、靴づくりが好きだからする、という自分が目指す方向とは違ってくるのではと思ったのです。
――千阪さんは一貫して、修理しながら長く履ける靴をつくられています。デザインから製作、発送まで1人でなさっているのですね。
そうです。実は靴づくりというのは、歴史的にみると分業制がとられてきました。デザインをする人、縫製、底付けなど、各担当者がいて、多くの人の手を経て靴は作られることのほうが一般的です。そのほうが効率がよいからです。
私は直接お客様とお話しして、その方が履く姿をイメージしながら一から作っています。そのためには、デザインから仕上げまですべての工程をこなさなければいけないので大変なのですが、たとえば「ここの部分は丈夫に作っておいた方が、長持ちする」など、作成の過程で細かいディテールにまでこだわることができます。そして修理が必要になった時には、材料や構造をすべて把握しているので的確に対応することもできます。