3月30日に発売された『自由学園 最高の「お食事」:95年間の伝統レシピ』(JIYU5074Labo著 新潮社 2017)は、自由学園卒業生の料理ユニットJIYU5074Laboが中心となり作りました。自由学園女子部(中学・高校)では、家庭科の授業として毎日学年交代で全校分の昼食を作っています。今回初めて、その中の82品のレシピが公開されました。今月の「大人女子のおしごと事情」はこのユニットのメンバー4人に聞いた、本ができるまでの制作秘話をご紹介します!
JIYU5074Labo(ジユウゴウゼロナナヨンラボ)
2016年、結成。
全員が自由学園卒業生で、足立洋子(料理・50回生)、中林香(写真・74回生)、菅原然子(ライティング、編集・74回生)、小路桃子(企画、スタイリング・74回生)の4人からなる。
それぞれの専門分野を生かしつつ、4人の共同作業から新しいものを生み出すことを目指し、様々なかたちで「おいしい」を伝えるメディアを制作予定。
公式サイト:http://jiyu5074labo.com/
600人分のお食事を生徒が作る学校
菅原:この本の発案者はももちゃん(小路)だけど、いつごろから構想を練っていたの?
小路:3~4年前。そのとき、母(足立洋子)の本をある出版社さんと作っていて、その本を担当していたライターさんに、私たちの母校・自由学園女子部でのお食事作りのことを話したら、「それを本にしたらいいのに」と言われて、やってみたい!と思ったのが始まり。
中林:料理の授業の話は、卒業してからもすごく盛り上がるんだよね。私たち(74回生)の在学当時は女子中・高・短大生全員分、600人分のお食事を毎日学年交代で作っていたなあ。
足立:私たち(50回生)の頃は650人いたわよ。生徒全員が揃って昼食をいただくから、お食堂もぎゅうぎゅうで(笑)。
菅原:ももちゃん、3~4年前に本作りのきっかけがあって、その後随分間があいての実現になったのはどうして?
小路:その時は、学園との相談が必要だし、卒業生の思いも強い分野だから、そうかんたんに作れるものではないと思って。でもどうしても実現したくて、神頼みではないけれど、タロットリーダーの七音さんに占ってもらったの(笑)。そしたら七音さんから「この本作りは、すぐには実現しないけれど、やろうとしていることはとてもいいことだから、時が来たらびっくりするくらいスムーズにできるようになる」と言われて、そうなのかーっと。
菅原:その「時」というのが2016年だったんだ。
足立:2016年の2月に、以前私の本を担当してくださった新潮社の笠井さんという編集者に学園レシピの本の話をしたら、興味を持ってくださったのね。
小路:そう。なんか笠井さんに無性に会いたくなって話してみたの。そしたら笠井さんが「まず学園を見学してみたい」って言ってくださって。それが嬉しくて、出すなら新潮社さんで出したいって思ったの。その頃から急に実現化に向けて動き出しました。
気持ちはつかうけれど、気はつかわない
菅原:ももちゃんとかおちゃん、私は同級生。友だちと仕事をするのは難しいのでは?という声もあると思いますが、その辺はどう?
小路:私はむしろ、友だちだからいろいろ言い合えるし、お互いの感覚もわかっているから仕事がしやすい。友だちだから気持ちはつかうけれど、気はつかわないから仕事がしやすいかな。
中林:それは、やっぱり学園でいろんなことを一緒にしてきたからかな。
小路:それはあると思う。それこそ料理の授業なんて、20数人の友だちとどうやって2時間で600人分のお食事を作るか、というマネジメントの授業でもあったしね。
菅原:なるほど。実はこの本には、他にもたくさんの元学園生が協力してくださっています。ボストンクリームケーキと希望満充はKNETENオーナーの菊川さん、紅茶はmimi Lotusオーナーの吉池さん、パンはBoulangerie Yamashitaオーナーの山下くん、撮影用のお料理ノートは神谷さんが貸してくれて。CheRishにもほとんどの方が登場してくれているね。
中林:上下級生とも協力するのが当たり前だった学園時代が、いい意味で生きていたのかも。
小路:私は友だちと仕事をするのが本当に好きなんだと思う(笑)。笠井さんも私の中では編集者でもあるけれど、お友だち。だから信頼できた。
舌の記憶がよみがえる
菅原:さて、この本を作る過程で、大変だったことはなんでしょう? 足立さんは、普段はご自分のレシピを紹介されていますが、今回は学園のレシピということで、勝手も違ったと思います。
足立:そうなの。家庭用においしくできるよう変更してもいいと言われたけれど、いろいろ悩んだわ。私は素材そのものの味や色を生かすレシピが得意なんだけれど、学園のレシピはお醤油味が多くて、どこまで調味料を調整していいものか、常に迷ってた。卒業生の思いも強いから、みんなの顔が思い浮かぶし。
小路:大量調理と家庭用の調理では作り方もかなり違うしね。
足立:材料と分量も、ただ単に割り算すればいいものじゃないから。たとえばスープは、学園レシピでは1人当たりの水分量が1カップなのだけれど、家庭用に換算すると水分が足りないことが多くて。大量調理の場合は野菜から水分が出るから、水の量は控えて当たり前なのよね。
中林:でも、すごく工夫してくださったから、撮影の時に食べたお料理、どれも学園時代と同じ味でおいしかったです。
足立:私も撮影のときに作って食べてみて、「ああこの味、懐かしい」と、その後原稿見ながら結構いろいろ作ったわ。ぎせい豆腐やババロアは何度も。
菅原:カメラマンは撮影後、かなりレタッチ(調整)してくれて大変だったんじゃない?
中林:うーん。でもね、人物のレタッチよりも料理のほうがやりやすいから。それに、この本は、ももが「やりたいの!」ってすごい情熱をもって取り組んでくれたから、私もいい意味で巻き込まれて頑張れた(笑)。
卒業生以外の方の目が生きる
菅原:4人それぞれの専門分野はあるけれど、孤立はしてなかったというか。たとえばリードは、料理の表現は、私よりもももちゃんのほうが上手なんだけど、文章にするのは私のほうが慣れているから、2人の共同作業で作ったんだよね。
小路:そうそう。あとは、タイトルや帯の文章を笠井さんが作って下さったのがよかったなと。
中林:なかなか自分たちじゃ「最高」とはつけられない(笑)。デザイナーさんも学園を見学してくださったよね。
小路:この本を作るなら、デザイナーは絶対に吉村亮さんにお願いしたい!と思っていて。そしたら吉村さんが「実は小さいころ、自由学園の近所に住んでいて、一度中を見学してみたいとずっと思っていたんです」とおっしゃったので、ぜひ!とお願いして見学にきていただいの。
中林:あと学園の風景や台所でのお料理中の写真は、新潮社のカメラマンの青木さんが撮って下さったんだけど、それもよかったなあと。卒業生だったら撮らなかった絵も上手に撮影してくださったから。たとえば献立の書いてある食堂の黒板とか。
足立:卒業生は見慣れていてなんとも思わないものね。
小路:そうしたことも含めて、私たち以外の方たちが学校のことを理解して制作に協力してくださったのが本当にありがたかった。
とにかく制作過程もすごく楽しくて、いろんな人の力でいいものが作れたから、この本をきっかけに、もっと多くの人たちに母校を知ってほしいなと。
足立:この本を作るのは、母校への恩返しだものね。
一同:そうそう!
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