CheRish Brun.(チェリッシュブラン)

好きと心地よいがつくる、私らしく楽しい暮らし

ガーデン

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“これが噂の場所か…”
ジョルジオは白い花々が咲き乱れる庭に居た。ジャスミンやチュベローズなど甘い香りが蜜のように濃く香り、木々と土の柔らかい芳香が後を追うよう鼻腔をくすぐる。

周囲に人は居らず、歌うような鳥の声が何処からか聞こえる。歌声は次第に近づき、気づくと背後に透き通るような美しい乙女が立っていた。声をかけようと思うが出ない。まるで忘却の泉を飲み、言葉を失ったノームのように言葉が出ないのだ。

乙女は白い手を差し伸べ、導くように花々の中をゆく。ジョルジオはその後を呆けたように着いていく。遠くに立ち昇る湯気が見える。一歩ずつ、湯気の元へ近づいてゆく……。

―目覚めたジョルジオは、自室の天井の装飾を見てがっかりした。妻の呼ぶ声でダイニングへ降りる。何故か心は満たされ幸せな気持ちだった。どこからか湧いてくる強い自信、漲る体力。それは67歳の彼にとって近年感じた事のない「若さ」だった。

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“桃源郷の夢”が話題になり始めたのは、つい先日の事だ。街の有力者たちが最近不思議な夢を見たと盛り上がったからだ。白い花々の庭、透き通るような乙女、湯気の向こうへ導かれそうになるところまで、複数人が同じ夢を見たと周囲は騒然となった。決して若くはない彼らが、堂々とした態度に艶と血色の良い顏と、明らかに若返っていたからだった。

暫くすると、その夢は”ガーデン”と呼ばれるようになり、街中で話題となった。若返りの夢に皆が憧れ、心待ちに眠るようになった。

ジョルジオは、ガーデンの夢の後、若い感覚が3日続いたが、徐々に薄れていった。同じ夢を見る方法は分からないし、また同じ効果を得られるとも限らない。同じ夢を見た奴らが、ずっと若さを保っていられるのは何故だ?持続力は人によって差があるのか?

10日目の夜、ジョルジオは眠りの中で”ガーデン”に居ることに気付いた。
やっと再び来ることができたのだ!ここぞとばかり白い花の香気を胸いっぱいに吸い込み、乙女を待った。無言のまま白い腕に導かれ着いてゆくと、今度は湯気の向こうが見えた。

そこでは見目麗しい女性たちが湯に半身浸かりながら、男たちの世話をしていた。濡れて透けた衣が身体にぴたりと張り付き艶めかしい。背中を流したり、湯の中で酌したり、香油を擦り込んだりしている。

天井のステンシル画、イタリア製と思われるタイルの美しい内館。岩場の残る湯はとても広く、湯気で奥までは見えないほど立派だった。気付くと乙女の姿はもう無かった。ジョルジオはおずおずとハマムへ足を踏み入れた。

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美女に身体を清められ、たっぷりとハーブ酒を飲みながら湯に浸かり、香油とスパイスを塗りこんでもらう。同じように湯に浸かる男たちが恍惚の笑みを浮かべながら、ジョルジオへ目配せをする。そうか、きっとこの湯に浸かった者は若返りが続くに違いない。今のところ知り合いの姿は見えないが、夜ごと誰かしらがこの場に辿り着き、若さを手に入れている違いないぞ。

もうもうと白く曇る湯気の中、一人の男が湯から上がり、美女にいざなわれ暗闇の中へ消えていくのが見えた。小さな呻き声が聞こえたような気がした瞬間、大きな銅鑼が鳴り響き、ジョルジオは目が覚めた。


ガーデンは街の男たちに活力をもたらした。

特に金持ちたちはこぞってガーデンへ行きたがり、日が暮れると我先にと帰宅し眠りについた。街の酒場は閑古鳥が鳴き、夜の街は異様な程静まり返っていた。

あれから2か月程経った、ひと気の無い夜の街角。

石畳の上、コツコツとヒール音がこだまする。20代半ばだろうか、若い女だ。蛇が施されたジュエリーをぴったりと首に飾り、髪をかけあげながら用心深く後ろを振り返ると、街灯を避けるように歩みを進める。黒いドレスの裾から、ジャスミンやチュベローズ、マルベリーやブラックピオニーの香りが放たれ、ミステリアスに揺れる。

女は大きな屋敷を窓の外から観察し続け、何かしら結果を得たと身体を固くしながら大きく頷いた。

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屋敷の中からは、夫人が泣いたり叫んだりしている声が聞こえてくる。

「あなた、目を覚まして頂戴!どうして目覚めないの!ジョルジオ!」

ガーデンの眠りに陶酔し、度々ガーデンを求め眠った男たちは、いつしか目覚めなくなっていった。日々、少しづつ眠りの時間が増え、ある日眠ったように死んだ。首筋に歯型のような痣が現れるのが、その前兆だ。痣が現れた翌朝はもう目覚めなかった。

女は首のジュエリーをそっと撫でる。
最後の一人を見届けた。怒りと悲しみはこれで全うした。

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5歳の頃、彼女はこの街を追われた。
街の有力者であった父は4人の男によって、知らぬうちに詐欺へ加担させられ、その首謀者として査問委員会にかけられた挙句、身分を剥奪された。財産は詐欺にて生じた返金のために全て使われ破産した。雨の夜、家族3人は逃げるように車で街を出た。

エンジンには細工がされていた。父に名前を出されては困る4人の男たちが仕掛けていた。郊外で横転した車は燃えさかり、後部席から放り出された彼女は、大声でただ泣き叫び続けた。オレンジ色の炎に照らされた焼け焦げた肌と髪は、彼女の首に蛇のような跡を残した。

彼女は街の全てを憎んだ。4人の男、査問委員会のメンバー、財産を差し押さえ追放させた人々、両親と希望を奪ったこの街。

執念の20年。彼女は”幻惑薬”を開発し、この街の水源に少しづつ混ぜていった。その水を飲むと男だけがどんどん幻影を見る様になってゆく。計らずとも夢という形で幻影は訪れた。恨みは黒魔術のような強大な力を生んだ。ジュエリーの下に隠された首元の蛇は、一夜に一人、幻影を十分楽しみ尽くした男に噛みついた。

街から全ての男たちが消えた。
ガーデンの夢は幻と消えた。

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http://cafedesparfums.jp

ブルガリ/ブルガリ パルファン事業部
Tel.03-5413-1202
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Author's Profile

美容ジャーナリスト/香りのストーリーテラーYUKIRIN
ナチュラルコスメとフレグランスのエキスパートとして、
「香りで選ぶナチュラルスキンケア」や、「香りとメイクのコーディネート」など提案する他、
香りから着想される短篇小説を連載中。

媒体での執筆・連載の他、
化粧品のディレクション、イベントプロデュース、ブランドコンサルティングなど幅広く活動している。
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