CheRish Brun.(チェリッシュブラン)

好きと心地よいがつくる、私らしく楽しい暮らし

デュアル・アンビエント

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「ねぇ、ココン。君の最近の担当はどう?僕の担当は16歳の女の子なんだけどね、気分にムラがあって行動が安定しないんだ。振り回されて必死だよ。この前なんてさ、彼女が美術室で、担任に向かって「結婚しないで!」なんて言い出して困ったよ。教師と言っても、彼女にとっては子供の頃から慕ってきた近所のお兄さんみたいなものだから、初恋の人に結婚して欲しくない気持ちはわかるけど。彼女には本当の運命の相手がいるんだから、気づかせなきゃ。僕は慌てて、廊下に見えない香りの糸を引いて、運命の相手がその現場へ入らないように転ばせたよ。どこからかジュニパーベリーの香りがして、その子も驚いただろうな。ふふふ。」

「シェノン、君は細工が大変そうだね。僕の方は、今回はタイミングを調整するのが大事なんだ。おじいさんはね、なかなか自分の娘さんに本当の気持ちが言えない人。奥さんを早くに亡くして、一人で必死に大事な娘さんを育ててきたんだけど、娘さんと喧嘩が増えてしまって。家出するみたいに結婚してから実家には一切寄り付かなくなってしまった。僕はおじいさんと娘さんを最良のタイミングで出会わせてあげないといけない。喧嘩別れにならないように。シェノンも見ただろ?星の掲示板。おじいさんの寿命はあと少しだ。」

「あぁ、見たよ。優先順位が高いランプがついていたね。ココンは優秀だから、残された時間でもしっかりやり遂げてくれるはずだって、お月様が言っていたよ。」

「期待に応えなくちゃ。じゃあシェノン、また後で。早速おじいさんのフォローをしてくるよ。」

ココンは青い空の中、雲の上に乗って地上へ降りて行った。僕たちは同じ星から生まれ、周囲からは「レ・ジェモー」(双子)と呼ばれていた。僕らの仕事は、地上の人々の運命を少しずつサポートすること。より良い運命へ導き、後悔を残さない人生となるよう見届ける。お月様から毎日掲示される星の掲示板には、日々色々な人物の名前が記載されていた。ココンと僕は双子で同じ成分で出来ているけれど、まったくの別人格を持っていた。ココンは、皆を照らすような温かく、華やかな気品がある。僕シェノンは、派手さはないかもしれないけれどクールでスタイリッシュなアクティブタイプ。って自分で言うのは恥ずかしいね。あぁ、ごめん。僕も行ってこなくちゃ。またね。


「ただいま戻りました。報告します。今日はおじいさんがいきなり娘さんを訪ねようとしたので、娘さんのポストに催し物のチラシを風に乗せて入れて、おじいさんと合わないよう外出させました。えぇ、勿論わかっています。身体に触れたり、心の中に入り運命を変えることは出来ないですから。あくまで環境を作り出して、そこに導くのが僕たちの仕事。つい僕の香りが転写してしまい、コリアンダーシードやムスク、バニラの香りが漂ってしまいました。でもそのおかげで、娘さんが気づいて外に顔を出し、ついでにポストを見てくれたから、外出につながってよかったです。おじいさんは娘さんが留守と知りガッカリしていましたが、明日おばあさんの墓参りで遭遇させますからご安心ください。おばあさんが無くなったことを、おじいさんが家庭を全くかえりみなかったせいだと娘さんは思っています。おばあさんのお墓の前で二人が合い、本音をぶつけあえるようにします。」

「あ、ココン帰ってたんだ!僕の方が遅かったね。お月様、僕も報告します。16歳の女の子、ようやく先生のことを諦めてくれました!憧れのお兄さんをとられて執着していたのでしょう。先生に直接気持ちをぶつけ、はっきりと断られ、婚約者をいかに愛しているか話してもらえるよう、二人を夜の歩道橋に誘導しました。彼女にもようやく、大好きなお兄さんの幸せを願えるようになりたいという気持ちが芽生えたようです。背を向けて泣きながら歩いている彼女の、100m先から同級生男子を向かわせました。彼女のことを以前から気にしていた男子です。そうですよ、運命の人!彼女の学校のバッグについていた、ぬいぐるみのチャームの紐を緩めておきました。無事落としてくれれば、彼が拾うでしょう。」

「シェノン、いい方向に持って行けたね!さぁ、今日は二人ともつかれたから。ムスクの香りの雲の上でもう寝ようよ。」

「お月様、今日の報告は以上です。おやすみなさーい!」


ココンとシェノンは夜の間ずっと、空の上で輝きながら眠っていた。朝が来るとお月様が眠りにつく。それと同時に彼らは目覚め、お月様が夜の間に更新した星の掲示板を確認する。そして急ぎでサポートに行かねばならない人を確認し、次にお月様が昇るまであちこちへ出かける。お月様が目覚めるころ、1日の報告を行うのだ。

「シェノン、今日は無事、おばあさんのお墓参りで、おじいさんと娘さんを引き合わせることができたよ。娘さんはお昼頃行く予定だったから、僕は娘さんが朝早く目覚めるよう鳥たちに騒いでもらったんだ。」

「おじいさんと娘さんは仲直りできたの?」

「うん、涙を流し合いながらハグをしていたから、これで大丈夫だと思う。間に合って良かった。おじいさん、あと少しで倒れてしまうから…。」

「僕たちが無力に感じることも沢山あるけれど、笑顔になれる手伝いをできて幸せだね。」

「うん、ホッとした。あ、今朝の掲示板見た?またランプの人がいたね。急いで行かなきゃ。今回は二人で一緒にやってみなさいってお月様が言っていたよ!」

「ほんとに?!やったぁ!ボクのことも認めてくれたのかなぁ?」

「お月様は、シェノンのこと認めてないんじゃないよ。それぞれの “ てきせい “ っていうのがあるんだって。」

「うーん…よくわからないけど、一緒に行けるのは嬉しいな!」

迎えに来た白い雲に乗り、二人はくるくると回りながら地上へ降りて行った。
レ・ジェモー。ココンとシェノン。二人で1つ。


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Author's Profile

美容ジャーナリスト/香りのストーリーテラーYUKIRIN
ナチュラルコスメとフレグランスのエキスパートとして、
「香りで選ぶナチュラルスキンケア」や、「香りとメイクのコーディネート」など提案する他、
香りから着想される短篇小説を連載中。

媒体での執筆・連載の他、
化粧品のディレクション、イベントプロデュース、ブランドコンサルティングなど幅広く活動している。
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