CheRish Brun.(チェリッシュブラン)

好きと心地よいがつくる、私らしく楽しい暮らし

Passion ~後篇~

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Passion ~後篇~

「Passion~前篇~」はこちら

<コンペ参加者>
A=個性的で奇抜なファッションの女。一匹狼。
B=フリル一杯のワンピースの女。裏ではCとタッグを組んでいる。
C=貫禄ある着物姿の女。裏ではBと組んでいる。
D=デニムにシャツのカジュアルな女。BとCが組んでいることに気づき、Eにタッグを提案した。
E=この小説内で「私」とされる人物。



7日目の夜が明けようとしている。

明るくなり始めた空、静寂なオーラ。青い空と海、まもなく昇る太陽の破片がきらめいている。結局、私は一睡もできないまま、唇を噛んで窓辺に立って電話を待っていた。海風に乗って届くジャスミンとミントの香り。目覚ましにと、冷蔵庫から冷たい炭酸水を取り出し、ライムをたっぷり絞って勢いよく飲んだ。

昨日の夕刻、庭でAに言われたことが、鋭く心に刺さった。

<必要なところに必要なものを届けられるのが一流よ。>

その言葉だけが頭の中を駆け巡る。いや、答えは分かった。私は走って部屋へ戻り、すぐに材料手配の電話をかけた。あとは間に合うかどうか…。

このコンペが始まった理由は、考えてみれば謎が多い。そもそも世界的ブランドが、日本人女性に絞りデザイナーを募集することも変だ。勝者のレベルも分からないのに、初めから来年のコレクションに起用することを優勝特典としたのも違和感がある。

大体、ポジターノのヴィラでコンペを行う理由が分からない。食事や掃除のスタッフだけで、肝心なブランド側の人間は誰も見当たらないし、最終日の提出時に来ると言う。ここまで ”ほったらかし” にするのは何故なのだろう?

その時、部屋の電話に赤い光がともった。内線の知らせだ。材料調達の回答がきた。私は息をつめたまま、受話器を取った。

7日目の朝9時、ダイニングに全員が集まった。昨日まではなかったスズランが、窓辺に愛らしく連なり、異様に張り詰めた空気の平和を願っているように見えた。各自デザインしたジュエリーを展示したガラスボックスには、黒い布をかけテーブルの上に置く決まりだ。やがて5つの箱が揃った。

「初めまして。私はブランドを代表してNYからやってきました。皆さんのデザイン、とても楽しみにしていました。」

挨拶をする紳士的な背の高い男性を入れて、5名がブランド側の審査員のようだ。

「では一斉に、布をとってください。はい!」

黒い布が翻り、私たちは互いの作品の完成形を初めて目の当たりにした。

「なにこれ!」

大きな叫び声と共に、Bがニターッと勝ち誇ったように私の作品を指さした。Bのボックスには、輝く大粒の宝石がデコラティブに飾られたネックレス。宣言通りだ。

「ちょっとどういうこと?!」

Bが今度はDの作品に気づき声を荒げた。私も思わず息を呑んだ。それは私がこの数日で創っていたネックレスに瓜二つだった。繊細なデザインで、細かな花の表情がさりげなく飾られ、派手ではないがBとはまた違った品がある。でも私は知っている。Dの作品は、元々はシンプルなダイヤモンドジュエリーだったはずだ。

Dは得意げに髪をかきあげた。

「B、あんたがCと組んでいるのは分かってた。テーマやモチーフが似ないように手の内を見せ合ってたんでしょ。だから私は、Eに組もうと持ち掛けた。Eのデザインが優れていれば、私の技術でさらに良いものにしてEを潰せる。何を血迷ったのか、Eがこんなもの出してきたのにはびっくり。自分の才能の無さに気づいて諦めたの?笑えるわ。それにしても、Aの提出もふざけてる。シンプルなプラチナのネックレス1本って。E、あんたはさらに最悪ね。安いシルバーチェーン1本なんて衝撃だわ。」

「私語はそこまで。」

紳士が大きく手を叩いた。5名の審査員は、互いに視線を合わせ頷く。

「勝者は決まった。AとE、君たちだ。」

その場が一斉に静まり返った。BとCは明らかに怒りで震えており、Dは顔色が青ざめ唇を噛みしめすぎて血が出ている。

紳士が話し始めた。

「私たちはL社だ。皆も当然知っているだろう。今回求めているのは、デザイン性の高いデザイナーではない。求めているものを察する力のあるデザイナーだ。B、C、D、君たちは自分ができる最高のクオリティを見せようと努力したが、私たちが探しているものとは違う。」

「…Aのプラチナ1本のネックレスが求めているものなんですか?
Eはネックレスにすらなっていない、素材をちぎっただけじゃない!」

震える声でDは、紳士を睨み付けた。

「日本人女性デザイナーを募集した理由がある。我々は、2年後に日本で開催されるビッグエキスポで、唯一のハイジュエリーブランドとして公式記念ジュエリー販売権を勝ち取るつもりだ。高価な限定モデルから、会場や制服などに組み込ませるカジュアルラインまでね。相当なビッグビジネスになるだろう。それには、日本での販売力や知名度を強化し、企業や政治家たちと交渉が必要だ。パブリックイメージに、日本人デザイナーの存在が欲しい。スターに押し上げ、日本のパブリシティも動かすつもりだ。」

「それなら、より技術に優れた有能なデザイナーが必要じゃない!」

「我々が欲しいのは“意向を理解できるデザイナー”だよ。私たちが求めるデザインができ、それを踏み台にするくらい野心にあふれた賢いデザイナーがね。このヴィラにはあちこちカメラを仕掛けて、君たちの行動は全て把握させてもらった。悪巧みも抜け駆けも全てね。私たちのブランドに相応しくない人間は、美しくないからね。」

誰もが何も言えず、静寂が訪れた。

神の呼吸だけが、風となって窓から舞い込む。心に傷を負った者たちの怒りや嘆きを浄化し、勝利を称える拍手のように。

女たちのパシオン(受難曲)は、静かに終わりを奏でた。


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Author's Profile

美容ジャーナリスト/香りのストーリーテラーYUKIRIN
ナチュラルコスメとフレグランスのエキスパートとして、
「香りで選ぶナチュラルスキンケア」や、「香りとメイクのコーディネート」など提案する他、
香りから着想される短篇小説を連載中。

媒体での執筆・連載の他、
化粧品のディレクション、イベントプロデュース、ブランドコンサルティングなど幅広く活動している。
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