大学院卒業後17年間務めた企業を昨年退職。産前産後通して妊婦さんと赤ちゃんに寄り添ってくれる助産師さんと、妊婦さんのマッチングを仕事にしました。
「私自身は妊娠・出産のトラブルは何もなかったのですが、困っている妊婦さんはたくさんいて。一方でそんな妊婦さんを助けたいと思っている助産師さんもいることがわかりました」と長坂さん。
独立のきっかけ、今のお仕事と暮らしについて聞きました。
妊娠期から育児期、ずっと同じ助産師が寄り添う
――長坂さんは2018年4月に「バース・イノベーションズ」という会社を立ち上げました。どのようなことをされている会社ですか?
妊娠中から産後のお母さんと赤ちゃんのケアまで、同じ助産師さんが一貫してサポートをするサービスを提供しています。特に初産の方は、ちょっとした疑問や体の変化にも敏感で、すぐにネットなどで検索すると思いますが、それが思いがけず不安をあおることになってしまうケースもあります。その人の体のことをよくわかった助産師さんがいつでも相談に応じてくれれば不安も減り、心穏やかに過ごせるはずです。
――本やネットの情報は、いわゆる一般論なので、すべての人にうまく当てはまるとは限りませんものね。実際にサービスを使われている方の反応は?
5月に出産した方は妊娠中、つわりがひどくて。また、心配性な性格で出産がどんなものなのか、どのくらい痛いのか、と不安もあったのですが、助産師さんが相談にのることで、ほっとすることが多かったそうです。たとえばつわりは「人によっては生まれるまで続く」と言われて、納得。また出産の仕組みを丁寧に教えてもらったことで、実際のお産のときにも「今は赤ちゃんがおりてきているから体がこうなっているのかな」と、冷静に臨めたそうです。産後は特に困っていることはないとのことで、こちらも「何かあればいつでも相談してくださいね」とお伝えしています。
――妊娠中から丁寧なケアがあったことで、産後も順調に過ごされているのかもしれませんね。長坂さんもお子さんがいらっしゃいますが、ご自身の妊娠がきっかけで起業されたのですか?
いえ、実は違います。私は妊娠中一切トラブルがなくて。つわりもまったくなかったんです。学生時代の先輩の知り合いの方がITシステムの会社をされていて、彼の奥様が出産するときにいろいろ苦労されて、男の自分はそばにいるのにどうしてよいかわからなかったと。だからそういう人たちのためにも、妊婦と助産師のマッチングシステムが作れないかと考えて、お話をくださいました。前職で、ワークライフバランスで悩んでいたタイミングでもあって、やってみようと起業しました。
ニーズがあることは確実
――協力してくれる助産師さんはすぐに見つかりましたか?
私自身が出産は病院で、それも里帰りだったのでそこでのつながりはありませんでしたが、幸い自宅近くの助産院がとても理解を示してくださいました。飛び込みで説明に行ったのですが、助産師さんが偶然私と同い年で。お話を聞くと、助産師さん自身も、妊娠中~出産~育児と継続的に女性に寄り添って助けたいと思われていました。というのも、産後育児に疲れ果てて助けを求めてくる方もいて、「もっと前からケアしていればこんなにつらいことにはならなかったはずなのに」ともどかしさもあったそうです。
――連携はスムーズに始まりましたか?
最初は、民間と組む、ということに難色を示されました。市や国とは仕事をすることはあっても特定の民間企業と仕事をすることってほとんどないそうなので。プレゼンを重ねてなんとか首を縦にふっていただきました。
その後、トライアルを経験した女性からは、「ちょっとした不安もすぐに相談できてよかった」という声をいただいています。助けたいと思っている助産師さんがいて、助けてほしいと思う妊婦さんがいる。それはわかったので、今はそういう人たちをどう発掘し、そしてつなげられるか、を模索しながら走っています。
通勤に3時間!
――前職は電機メーカーにお勤めでした。
はい。シャープという会社で、研究所に10年、その後商品企画部に7年ほど勤めました。もともと学生時代に光の研究をしていたので、研究所では3Dレンズ製造技術やホログラムの研究などをしていました。ですが研究成果がすべてすぐに商品開発に結び付くわけではないので、もう少しお客様に近い仕事がしたいと、上司に直談判して商品企画部に転部。最初の3年間は基本的なマーケティング(アンケートによる購買傾向分析など)をして、その後もう少し事業部寄りの部署業務に移り、超音波ウォッシャーやAIを使ったヘルシオの開発などをしていました。
――専門も生かせてやりがいもありそうですね。
仕事、楽しかったんです。ずっと。人間関係もよくて。ただ、会社が途中で社屋移転をして、通勤に往復3時間かかるようになってしまって。ちょうど娘が年長に上がるタイミングでした。それまでは時短もとらずにフルタイムで働いていたのですが、移転後は時短をとっても保育園のお迎えは遅くなり…。将来のことを考えた時に、このままでは思い切り仕事をすることもできないし、一方で通勤にばかり時間を取られて生活も充実しないと悩みました。そのタイミングで起業のお話があり、決断しました。
――実際に転職されていかがですか。
よかったです。以前は電車通勤で時間もかかっていましたが、今は基本的に移動は自転車圏内、仕事も自宅でできるものが多いので、子どもとちゃんと向き合えています。娘は一つひとつの行動がゆっくりなのですが、以前なら「早く!」とすぐせかしてしまっていたけれど、今は子どものペースに合わせられる。あとは勉強をみたり、本を一緒に読んだり、実験したり、そういうことに時間が使えるのはだいぶ違うなと思います。前職の頃はよくあのタイトな時間で暮らしを回していたなと思います。
――今起業されて、会社員の経験をしていてよかったと思われたことはありますか。
そうですね。事業を考える上では、お金の流れやコストのことなど、会社員時代はそうしたこととあまり関係のない部署にいたとはいえ、会社にいたおかげで一般常識程度には身についていたと思います。また商品企画部にいた頃は、ニーズをつかむためのコツを教えてもらって、それは今役立っていますね。分野は違っても無駄ではなかった。人脈もできましたし。あとは、ベンチャー企業の経営者がいきなりプレゼンに行っても「どこの誰?」と思われることが多いのですが、「元シャープ」と言うと、少し信用度が上がることは実感しました。会社ではいろいろやらかしましたけど(笑)、今はとても感謝しています。
株式会社バース・イノベーションズ 代表 長坂由起子
娘(1年生)と夫の3人家族。
大学、大学院で応用物理学を専攻し、光技術の応用研究に携わる。
電機メーカーに就職後、10年間専攻を活かしたテーマで研究を続けるが、研究成果を製品にアウトプットしたいという思いから、商品企画部に転部し、ユーザー視点でのモノづくりを考える。
会社生活にも満足していたが、ライフワークバランスがとりずらくなってきたと感じていた時に、縁あって起業のきっかけとなる話を聞き、そちらに舵を切る。
現在は、(株)バース・イノベーションズを軌道にのせるため、主に営業活動、サービス企画・運営を行っている。
https://www.birth-innovations.jp/
お仕事を成功させるために心がけていることは?
楽天的な性格もあり、何かトラブルがあっても、良い経験ととらえて次の一歩を踏み出すことでしょうか。
オンとオフの切り替え方法は?
特にないです。
自宅で仕事をするときは、周りに何もない空間に閉じこもります。
休日の楽しみ方は?
娘中心ですね。娘を楽しませることをする!
近所のお祭りに参加したり、博物館や水族館に行ったり、劇や映画を見に行ったり、工作したり、あっという間に時間が過ぎています。
今、プライベートではまっていることは?
特になし
10年後はどんな風にお仕事をされていると思いますか?
その時々で自分の興味や時代も変わるのでわかりませんが、自分のライフスタイルに仕事が溶け込んでいるような形が理想ですね。
好きなことが仕事になっている、という状態でしょうか。
今回の起業はその第一歩ですが、自分のスキルを磨き、経験を重ねて、自分が興味を持ったことを軽やかにビジネスに繋げたいなと思います。
これからの夢は?
海外でも生活してみたい