CheRish Brun.|チェリッシュブラン

私のごきげんな毎日を送るライフスタイルマガジン

一夜を紡いで千夜が続く

魔法の香り手帖
コント デュ ルヴァン オードパルファム

夜が明ける前のオリエント、シェヘラザードの語り口。
王の導く死刑台は、彼女の知性で先送り。
ディナールザードは必ずこう言う。

「お姉さま、もしお眠りでないのなら
夜が明けるまでのこのひと時
楽しい寓話をお聞かせいただけませんか?」

夜毎飛び出す愉快な話、気にはなるも夜明けは来たり。
あくる夜も聞きたくば、彼女を殺せぬパラドックス。
女はやると決めたら、何があってもやるものだ。
押さえつければ、ひずみが起きよう。

教会

バルソラ王国のスルタンの娘は美しく、たぎる情熱に長い髪。
つぶらな瞳で花を折り、10日で召使いが入れ替わる。
花弁を浮かべた浴場に、まっさらなリネンと真っ黒な腹。
屋敷の窓からは香木とスパイスの煙。
道に撒かれた花水は、得も言われぬ恍惚さ。

コンスタンティノープルより薔薇届き、
スルタンは美しさに一目惚れ。
まさにわが子の様と褒めたたえ、
献上した羊飼いに黄金を授ける。

夜更けに薔薇は姿を変え、娘の寝所に黒い影。
娘を組み敷くは昼間の羊飼い。
術使いの手によって、薔薇に姿を変えていた。
娘は悪い遊びが性に合い、来る日も寝所を愉しむと、
いつしか互いに情が芽生えし。

ある夜、薔薇の香りに誘われて、
娘の顔を見るために、スルタンが寝所へ立ち寄った。
娘と羊飼いは露わな姿、逆鱗触れずに済まされず。
翌朝、王の目の前で首を切られるその直前、
羊飼いが涙をこぼして命乞い。


「あら、夜が明けてしまいましたね。」
シェヘラザードは死を覚悟。
話の続きが聞きたい王は、
もう一夜、彼女を生かすことにした。


次の夜明け前も、ディナールザードが声をかけ。

「お姉さま、もしお眠りでないのなら
夜が明けるまでのこのひと時
楽しい寓話をお聞かせいただけませんか?」

シェヘラザードは王を見上げて一言。

「王様、構わないでしょうか?」

話の続きが聞きたい王は、黙って頷いた。


羊飼いは怒るスルタンにひれ伏した。
私はエジプトの大宰相の息子。
武者修行のために旅に出ていたが、
娘に惹かれ、薔薇に姿を変えていた。
あなたが黄金を渡したは、術使いのものである。

すると何やら、王の怒りは思案へ遷移。
エジプトの大宰相ならば話は違う。
嫁がせ取り入る好機をとらえ、
早速輿入れの支度をさせた。
カイロ、スエズ、アレクサンドリア…
極上衣服に瑠璃の壺。
贅を尽くした皮布と、薔薇の香りを携えて。

コント デュ ルヴァン オードパルファム

「羊飼いと言えば、もう1つ面白いお話が。」
シェヘラザードはそう言った。
まだ話が聞きたい王。
もう一夜だけ、彼女を生かしておこう。


次の夜明け前も、ディナールザードがささやいた。

「お姉さま、もしお眠りでないのなら
夜が明けるまでのこのひと時
楽しい寓話をお聞かせいただけませんか?」

王もシェヘラザードの話が気になり、
死刑は持ち越すことにした。
いつでも殺せる身であれば、
今日でなくとも同じこと。


父親は気の毒なほどのお人よし。
困っている人がいれば放っておけず、
自らの持ち物を分けあたえ、
それに浸け込む悪い奴さえも、
しまいに呆れて諭す始末。

ある時、森で象牙を見つけ、一財産に成り変わる。
町の人は皆がたかって、象牙のあった場所を問いたてる。
教えて良いのかわからないまま、
ある夜、夢に象があらわる。

どうか場所を教えないで。
私たちは仲間が死んだら、
この場所に埋めているのです。
掘れば沢山の象牙があります。
しかし、私たちの神聖な墓が荒らされる。
代わりに、この種を授けます。
あなたの子供を守ってくれるでしょう。

翌朝父親は、庭にその種をまき、
象牙の在りかは誰にも言わず、
水を与えて育てはじめる。

20年の時が過ぎ、老いた父親は病に伏せ、
息子に木を頼んで息絶える。
庭には、少しで空に届きそうな杉の木が。
悠々暮らせる財産はある。
息子は羊を飼いながら、その木を守ることにした。

ある日、木陰で休んでいると、
若い女が息もたえだえ歩いてきた。
聞けばジンに追われているという。
ジンは醜悪な姿、身の丈は雲を突くよう。
頭の上には硝子で出来た大きな櫃(ひつ)。
海面を裂き、現れ出るは恐怖の姿。
どうかジンから身を隠させて。

そこで息子は、杉の木の太い枝に女をくくり、
木が天に向かって伸びる勢いにまかせ、
ジンの目から見えないように空高く。
過ぎたジンの背中を見やり、息子は杉の枝を切る。
抱きとめた女の衣には、豊かで耽美な杉の残り香。
二人は恋に落ちてゆく。

杉の魔力で、二人は老いず。
若々しい笑い声が、窓から漏れる。
何故ゆえ、杉で若さを保てたか。
それは…


次の夜明け前も、ディナールザードは必ずこう言う。

「お姉さま、もしお眠りでないのなら
夜が明けるまでのこのひと時
楽しい寓話をお聞かせいただけませんか?」

気になるところで話は終わり、
嗚呼、その続きはまた明日の夜。
気づけば千夜を超えゆかん。

一夜を紡いで千夜が続く。

レジェンド デュ セードル オードパルファム

Inspired by ガラン版「千一夜(アラビアンナイト)」


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美容ジャーナリスト香水ジャーナリストYUKIRIN
ナチュラルコスメとフレグランスのエキスパートとして、
「香りで選ぶナチュラルスキンケア」や、「香りとメイクのコーディネート」など提案する他、香りから着想される短篇小説を連載中。

媒体での執筆・連載の他、化粧品のディレクション、イベントプロデュース、ブランドコンサルティングなど幅広く活動している。
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