湿度の高い、暑い朝。
花々も樹々の葉も朝露に濡れ、より一層色彩を強める。
異国の地でひとり、デジタル機器をシャットダウンし、私は此処にいる意味を考える。彼の眼差しも、きゅっと上がった口角も、身長の割に長い腕も、傍にいるよりリアルに感じるのに、此処には居ない。テラスから渓谷の自然を眺めながら、彼の言葉をひとつひとつ思い出す。心の内を話すのが苦手な人の紡ぎ出す、感情がうまく乗らない拙い言葉たち。都合の悪いことは、後回しにして言わない癖。
違う、私だって都合の悪いことは後回しにした。彼の心に自分がもう居ないことを気づいていたのに、自分で見て見ぬふりをした。考えないようにした。悲しいとか悔しいとかじゃない、彼のために良い選択をしようと強がっていた。ただ、悲しかったくせに。悔しかったくせに。
認められなかっただけ、恋が終わったことを。
こみ上げそうな涙をこらえて、私は紅い香水を手にとる。夏の木漏れ日が美しくボトルを照らし、香りへの欲望を募らせる。緋色の花びらを大きく咲かせたカメリア、澄んだベルガモットに、異国のフルーツ。私の居る景色ごと、違う空間に感じさせてくれる。
こうやってシーンを切り替えていけばいい。すべての出来事は起きた側から過去になってゆく。まるで万華鏡のように人生はまわる。まわり続ける。この香りの波に乗って、このまま海を越えて、夏風を感じて、無限の空へ羽ばたいていきたい。
認められない自分を認めよう。そこから新しい景色が始まるのだから。
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「カメリア K オードパルファン」
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