演奏家として、そして講師として
――卒業後はプロの演奏家として活動を始めます。
帰国後、留学までの資金をすべて親に出してもらっていたこともあり、きちんと結果を出さなくてはと思い、かなりたくさんの演奏会を企画し実行していました。ですが、そうした活動を始めた2年目に、日英で2か月ほどかけて行う演奏会の企画があり、プレッシャーも大きく、終わったときに心身ともに疲れ果てて体調を崩したことがありました。それをきかっけに、自分にはこういった多くの演奏会をこなすほどの要領の良さがないと自覚し、演奏家1本で活動していくのではなく、教えることと両方をやっていきたいと思い、ピアノ講師の仕事の比重も増やしました。ただ、私の先生がそうであったように、生徒に教えるからには、自分も人前できちんと弾ける技術を身につけていないといけないと思い、どちらか一方だけにすることはしていません。
――ピアノの先生はたくさんいますが、最初はどのように生徒募集をされたのですか。
近所の薬局に、「ピアノ教えます」という手書きのチラシを貼りました。それを見て来てくれた生徒は、当時幼稚園児でしたが、今は大学4年生になりました。レッスンには来ていませんが、今でも時々会うと、近況を教えてくれたりして、生徒の人生の大半を観ていられるのはこの仕事の魅力の一つだと思います。
あと、自分も中学高校時代に、ピアノの先生にピアノ以外の悩みを相談したことがよくありましたが、私も生徒から時々「親がこう言っているけれど、私はこう思っていて」と相談されることがあります。また、ピアノに向かう態度から、「何か今、困っていること、悩んでいることがあるのかな」と感じることがあり、少し聞いてみると、涙をぽろぽろ流しながら悩みを話してくれる子もいて。もしかしたら、子どもにとっても、学校の先生や親以外に、話ができる大人がいることは、いいことなのかな、と思っています。
――生徒さんに教える中で特に力を入れていることは何でしょう。
人前で弾く機会を積極的につくっています。そのために発表会を年2回しています。これは、私自身が先生から人前で弾く機会はあればあるほどいい、と教えられたことも影響しています。人前で弾くと、自分の癖がよくわかりますし、誰かに聴いてもらうという目的があれば練習の仕方も変わってくると思うからです。準備は生徒も私も大変ですが、それにもまさる収穫があると感じているので続けています。