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私のごきげんな毎日を送るライフスタイルマガジン

インタビュアー

魔法の香り手帖
パルファン ビキニケスタセラ

逢魔が時。燃える色彩はテラスを真っ赤に照らしていた。海辺のホテルのスイートルーム。ここには正直来たくなかった。でも…、一流誌の表紙とインタビューだ。この3年で私は女優として完全に成功した。イザベルは心の底から湧き上がる喜びを抑えきれずにいた。

日沈と同時にインタビューが始まった。

インタビュアー「大活躍のイザベルさん、どんな時に旅に出たいですか?」

イザベル「この1年は休みが無くて…リゾートなら海外の方が気楽かしら。でも今日のように素敵なホテルなら、国内もいいかも。」

インタビュアー「リゾートへ行かれる際はお友達と?」

―なんて退屈な質問。リゾートなんて、雑誌のタイアップか、男とに決まっているじゃない。ドラマの合間にCMや映画撮影も入って、休みなんて無いわよ。それにしても、このインタビューの女、地味だし小声でなんだか気味が悪いわ…。

完全に陽は落ち、波の音だけがそよぐ。
イザベルのドレス裾が宙に浮くと、ジャスミンとチュベローズが熱を持って香り立つ。熱は強く、まるでその香り以外何も身に着けていないようにゆらぐ。

20時を超える頃、すべてが終了し、スイートルームの明かりは消えた。

パルファン トルネードブロンド

インタビュアー「皆さん、こんばんは。話題の人物へのインタビュープログラム”ビジネスシェアリング”です。本日は、TVはいつも出演を断ってらっしゃるという実業家アン・ロブさんが、小さな不動産会社事務から、この街の不動産王にまで出世された経緯について伺いたいと思います。」

アン「30年前、私はバツ1でシングルマザーの事務員でした。男社会の中で戦って営業職を勝ち取り、成績トップを取り続けるうち取締役に抜擢されたの。ヘッドハンティングされ、大手不動産会社の重役へ。そこからはご存じの通り、再婚相手の資産を相続しただけ。」

インタビュアー「あなたのホテルチェーンは、現在少し業績が厳しいようですが…。」

アン「ビジネスは当然浮き沈みがあるわ。このホテルは私が10年前に再建したの。今は厳しくても必ず復活させるわ。
…ところで、ちょっとカメラ止めて?あなた最近逃げ回っているから、あえてこの番組引き受けたのよ。私…正式に出資を打ち切るわ。」

イザベルは目を大きく見開いた。アンは、レッドソールの芸術的なヒールを履いた足を組み替え、鼻で嗤った。

アン「薄々気づいていたでしょ?あなたが場末のホステスの頃からの付き合いだもの。」

―アンは不動産王の元夫と結婚した数年後、彼を殺害した。彼女は家庭内暴力を日常的に受け、酷く殴られたある夜、路地裏で倒れているのを助けたのが私だ。アンを心から救ってあげたいと思い共謀したのに、数十億を手にした途端、彼女は私に国外へ出ろと命じた。私は秘密を守る代わり、夢だった女優になるための資金援助を申し出た。アンは私を常に見下し高圧的だったが、私にはどうしても資金源が必要だった。

インタビュアー「警察に言うわよ?」

アン「警察?あなたも終わるわね。もう十分恩恵受けたでしょ。私、お金は全て息子に残したいの。ケント??どこにいるの?さっさとこの女を追い出して!」

イザベルは屈辱に震えながら、胸元の大きなネックレスをゆっくり首から外すと、思いっきりアンに投げつけ、ドアへ全力疾走した。

その瞬間、ゴールドの光が部屋中を駆け抜け、カシスを敷き詰めたベッドが破裂した。深紅の薔薇が大きく弧を描いて散り、ヴァイオレットが余韻のように漂った。

高級ホテルの一室は、跡形もなく吹っ飛んだ。

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インタビュアー「実業家殺害の遺書を残して自殺…というショッキングな事件ですが、女優イザベルさんの死について、所属事務所社長としてお話いただけますか?」

ケント「母亡き後、私は事業を引き継ぎ、イザベルの事務所を続けて参りました。3年前、あの爆発が起きた時、僕はホテルのフロントへ行っていて、事故を免れました。突然、頭上で大きな爆発音と地響きがして…。まさかイザベルが爆破したとはさすがに…。」

―会社のお荷物であったイザベルの事務所をクローズする話は、以前から密かに進めてられていた。彼女は事務所の代表権を自分に移すよう画策し、新たな資金源探しに奔走した。僕たち親子を、事故に見せかけいつでも消せるよう準備してきたに違いない。
僕が部屋に居なかったのは、全く偶然だった。まさか自分の命をかけ爆発を起こすとは想定外だった。『カメラが暴発したのに生き延びた奇跡の女優』として、イザベルは注目され、その後はトントン拍子。晴れて一流誌の表紙と巻頭インタビューへ漕ぎつけた。
あいつは僕を騙せていると信じている。爆発はあくまで事故だったと。僕は彼女の怪我を支え、恋人となって機会を待った。そして、昨日ついに成し遂げた!母を失ったこのホテルで。

ケント「君も人が悪いね。インタビュアーさん。」

インタビュアーは、バサリとカツラを落とすと、首のストールを外した。剥き出しにされた喉仏からは、凛としたアイリスと、湿り気を帯びたパチュリに、甘いトンカビーンが匂い立つ。

インタビュアー「あいつは僕を覚えてないだろうけど、念には念をね。」

―僕は3年前、小さな情報番組のカメラマンをしていた。イザベルは素人同然で、その仕事も事務所が金で買っていた。収録のため訪れたホテルで爆発に遭い、僕は右腕を吹っ飛ばされた。カメラなど暴発していないのに、イザベルの証言で僕は容疑者として扱われ、仕事を失い多額の慰謝料を背負った。あいつは、僕をゴミのように巻き添えにした。自堕落な日々に、声をかけてくれたのが、ケントだった。僕たちは復讐を成し遂げるため、入念に準備を重ねた。昨日僕は一流誌の女インタビュアーになりきった。ケントは後ろからイザベルの首を縛り上げ、片づけまで含めて犯行は2時間で終えた。20時過ぎ、僕たちは部屋を出た。

明日、このインタビューがTVで流れる。事務所社長が聞いた、最後のイザベルの声として。虚構はハリボテのまま受け入れられ、世界はすぐに彼らのことを忘れ去るだろう。

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美容ジャーナリスト香水ジャーナリストYUKIRIN
ナチュラルコスメとフレグランスのエキスパートとして、
「香りで選ぶナチュラルスキンケア」や、「香りとメイクのコーディネート」など提案する他、香りから着想される短篇小説を連載中。

媒体での執筆・連載の他、化粧品のディレクション、イベントプロデュース、ブランドコンサルティングなど幅広く活動している。
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