CheRish Brun.|チェリッシュブラン

私のごきげんな毎日を送るライフスタイルマガジン

他愛もない、ある恋の肖像

魔法の香り手帖
フローリス FL オードパフューム ワイルド

僕に選択権は無い。それがこの恋のルールだ。

彼には温かい家があり、たくさんの部下も、社会からの信頼も、地位も名声も、金もある。全てを持っている。何も過不足無く、大海原を穏やかな風の中進む大きな船のようだ。それに比べ、僕はなんて無力なのだろう。時給制の仕事はやりがいのあるジャンルを選んではいるが、そこに就職するかは分からないし(多分しない)、趣味で書き物をしているがそれは自己満足と言われればそれまでで、社会的信用性に欠ける若者であり、金も無い。

毎週木曜日、僕は彼からの連絡を待つ。月曜から水曜は仕事が特に忙しく、金曜は週末前でこれまた忙しい。土日は家族と過ごす。だから木曜。木曜の夜だけが僕の時間だ。平日の夜の、ごく限られた数時間。僕から連絡をすることは無い。彼が会いたいと言えば会う、ただそれだけだ。彼は僕に様々な経験を与えてくれ、知識欲も満たしてくれる。僕は彼に、白く細い腕と小さな呻きを差し出す。互いにそれ以上を求めれば、全ての均衡を崩してしまうんだろう。会えなくなるのは、嫌だ。

日曜の夜、不意に電話が鳴った。彼の名前が表示されただけで、どくんと胸が鳴る。彼は日ごろ、僕にメッセージは一切送らない。証拠を残さないようにしているんだろう。いつも電話だった。でも日曜にかかってきたことは無い。聞けば、来週の金曜に自社の創立記念パーティーをやるからそこに来ないかという誘いだった。「会社に関係のない僕が行っていいの?」と聞くと、「たくさん人が来るから、どの程度会社と関係値がある人かなんて、誰も気にしないよ。」と言う。断る理由なんてない。僕は少しでも彼に会えるなら、どこへでも行く。

フローリス FL オードパフューム ワイルド

金曜の夕方、久しぶりにスーツを着た。彼に恥をかかせたくないので、若者が着ても嫌味の無い範囲で、出来るだけ品もあって質がいいもの選んだ。襟にグリーンのカーネーションを挿した。ピュアな愛の証。手首と腰に、フローリスのワイルドをまとう。颯爽と登場するシトラスブロッサムとスパイスのレイヤード。さながら、オスカー・ワイルドを気取ってみる。世が世なら、彼も僕も罪人だったのだろうか。このロマンチシズムは罪となり、世界に糾弾されただろうか。

歪んだオレンジ色の夕陽が、ゆっくりと落ちていく。僕はきれいに磨いた革靴を履いて、会場に向かって歩きはじめた。

フローリス FL オードパフューム ワイルド

【掲載商品】
■フローリス
「FL オードパフューム ワイルド」
100mL ¥37,400
フローリス(ハウス オブ ローゼ)
tel.0120-16-0806
http://www.floris.jp

美容ジャーナリスト香水ジャーナリストYUKIRIN
ナチュラルコスメとフレグランスのエキスパートとして、
「香りで選ぶナチュラルスキンケア」や、「香りとメイクのコーディネート」など提案する他、香りから着想される短篇小説を連載中。

媒体での執筆・連載の他、化粧品のディレクション、イベントプロデュース、ブランドコンサルティングなど幅広く活動している。
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