どんなに明るい太陽も、陽が沈んだ後の顔など知りえない。無限に広がるパワーは本当なのだろうか。そもそも無限は存在するのだろうかとすら思う。ただ人間は今のところ生きている間にその限界を見ることができないだけで、本当は空にも大地にも太陽にも限界があって、いつか世界が途切れる日が来るかもしれない。
「相変らず、暗いよ。考えたってしょうがないことは、考えんなよ。」
彼はいつ会っても明るい男だ。太陽のような奴と言えると思う。他人が笑ってくれることが嬉しくて、面白いと言ってほしいそうだ。その点は僕だって同じはずなんだけどな。
「まぁ、それが君のいいところだから。」
彼はそう言って空いた缶を持って、ベンチから立ち上がり、後方のゴミ箱へバスケのようにシュートする。ガン!と音がして、きれいに缶は吸い込まれていった。
「やったー!見た?ねぇ、見てた?」
きっと僕ならきれいに外す気がする。仕方ない、ネガティブで身体全体が作られているのが自分なんだから。いや、ネガティブというより、他人からの攻撃をいかに避けていきるかのための、ネガティブに考えておけば何が起きても怖くない精神というか。
「見たよ、うまいな。」
「ありがと。」
うふふと微笑むと、彼は長い脚を組んで座り直し、軽く口笛を吹く。彼の温かい香りがふわりと伝わってくる。それはきらめくようなシトラス、穏やかなブラックカラント、そしてホワイトフラワーの豊かな香り。誰にでも優しくて、分け隔てなく、温かい。本当に太陽のような奴だと思う。彼には傷ついて欲しくないし、彼を傷つける奴は僕も許せないだろう。あぁそうか、皆に愛される太陽は、その存在を皆が信じて守っているのか。だから唯一無二の存在として、無限に輝き続ける。
「おまえってさ、ネガティブになることないの?」
「えー、あるよ。」
「嘘だね。」
「ほんとだって。結構繊細で傷つきやすいし…」
「顔が笑っちゃってるってば。」
「なんかニヤけちゃった。でも、本当に傷つきやすいよ。だから茶化してその場を暗くしないというか、そんな風にしてるのかも。」
「傷つくってのは、誰かが自分の悪口言ってたらーとかそういうこと?」
「うーん、まぁそれもショックではあるけど、親友だと思ってた奴がそうじゃなかったとか。」
「それは誰でも傷つくわ!嫉妬とかするの?」
「嫉妬はね…する。結構するかもね。知ってる?太陽って嫉妬深い星らしいよ。」
僕が太陽について考えていることが、見透かされたような気がして、一瞬生唾を呑み込んだ。
「チェロキー族の格言にあるんだって。太陽は嫉妬深い星って。あんだけ熱いから頭に血が昇っちゃうのかな。でも、どんなにへこんで地平線に消えても、朝にはすぐ復活しちゃうからね。俺もそういう人でありたいなと、いつも思っているんだよね。一晩寝れば元気みたいな。」
公園の向こうに、ちょうど太陽が沈みかけている。彼は、自分で自分を強制終了させて、リセットしているんだろうなと思った。美しい朝陽となって昇り、また周囲を包み込む温かさと、熱いエネルギーを放てるように。
「でもさ、君みたいに落ち着いてて、クールな人もいいと思うよ。ほら月みたいにさ。」
「太陽と月じゃ、俺たち一生会えないよ。」
「そうか!でも背中を預け合えるみたいなさ。」
「バディみたいなね。」
しばらくして、夕陽はすっかり沈み、静かな夜が訪れる気配に変わった。辺りには、バニラと樹々の香りが漂う。人は自分に無い物を求めすぎる。自分に足りないことを自分で責めて、完璧な人間でないことを恥じる。でもそんな必要はない。自分とは違う人々と、繋がっていくのが人生だから。
彼と友達で居られて、僕は幸せなんだな。きっと。
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