調香師、そしてデザイナーでもある英国人ジェームス・ヒーリー氏によって創設された、フレグランスブランドHEELEY(ヒーリー)。香り、グラフィック、パッケージに至るまで自社でデザインし、ヨーロッパでも数少ないオーナー(創設者)=クリエーター(調香師も含む)である。
意外とブランド創設者と調香師がイコールであると思っている方も多いが、実はほとんどが別であり、創設者が調香師へ調香を依頼し創作されていることが多い。創設者も、ブランドディレクターの色が濃い場合や、マーケッターの要素が強い人もいて、ブランドイメージの創り方などが変わってくる。
私がジェームス氏に初めて会ったのは、おそらく8~9年前のことだ。来日したジェームス氏が、某百貨店でHEELEYのコーナーに立つことを、日本でHEELEYを扱う正規代理店の方にお知らせいただき、声をかけてもらったのだ。今思うとなんて貴重な機会だったのだろう。
当時販売されていたが、現在は廃盤になってしまった香りもあり、『フィギール』もその1つである。HEELEY初期コレクションの1つで、フィグリーフやメロン、干し草など香りが清々しい、アロマティックグリーンノートだった。その『フィギィール』が再構築され、今年、新作フレグランス『アシーニアン』として登場した。
『フィギール』に使われた、イチジクの木の良質なウッドを表現した香りを強調し、フィグの樹・葉・果実全体そのものを表現できるものにアップデートしようと考えたとのこと。ジェームス氏はそれを「ポートレート・オブ・フィグ」(=フィグの肖像画)と呼んでいた。
イチジクはギリシャで何世紀も前から崇拝されてきた植物であり、食事や伝統的なソースにも使われてきた歴史ある重要な存在。古代ギリシャ神話によると、最初のイチジクの木は、反抗的なシケウスをゼウスの怒りから救うために、シケウスの母である大地の女神ガイアによって、シケウスはイチジクの木に変えられたと伝えられており、アテネ=ATHENの地名からアレンジされた『アシーニアン』と名付けられた。
アシーニアンという言葉は本来ATHENIANという綴りになるが、それはアテネ人という意味で、HEELEYの『アシーニアン』は『ATHENEAN』と綴る。これは、フランス訛りのニュアンスで、ジェームス氏が遊び心を込めスペルをアレンジしているそうだ。
ところで、フィグ=無花果(いちじく)の香水と言うと、果実の甘い香りを想像する方が意外と少なくない。しかしながら、メゾン系フレグランスブランド、特にヨーロッパブランドではグリーンを強めて創られていることが多く、香水好きな方ならいくつかのブランドのグリーンなフィグの香水を思い浮かべることができるだろう。つまりグリーンなフィグの香水というものは、いくつも存在している。
HEELEYの『アシーニアン』は、確かに「フィグのポートレート」がメインだが、フルーティーでありながらもガルバナムのバルサミックな要素や、アンバー、サンダルウッドというウッディな側面がしっかりと主張しており、フィグの香水に慣れている方でも新鮮な印象を感じるだろう。実はオークモスも使われており、自然の中で過ごすひと時のようなリラックスしたムードも漂っている。
そもそもHEELEYの香水は、額縁のある色彩豊かでクールな絵画というイメージが個人的にあったが、『アシーニアン』にはよりクールでジェントルマンなニュアンスを感じた。もちろん女性が纏っても美しく肌に馴染むが、ルーズフィットなファッションが多い昨今、背筋が少し伸びるこの香りを纏えば、性別など関係なく断然オシャレでカッコ良い雰囲気を感じさせることができる。
なお、ジェームス氏によると、この香りにフィグの精油は使われていないとのこと。過去にユズの香りを手掛けているが、その時も彼はユズの精油をあえて使っていない。これはアレルギーを引き起こさせないためという理由が一番だそうで、いくつもの香りを重ね合わせて、ジェームス氏の表現したい「フィグのポートレート」が作られている。まさに画家のように、様々な色をパレットで混ぜ合わせ、キャンバスにフィグのポートレートと、その風景を描いている。
今年の春は、『アシーニアン』を纏って、緑の豊かな場所へ出かけてみよう。
【掲載商品】
■HEELEY
「ヒーリー オードパルファン アシーニアン」
100mL ¥22,000
株式会社アイビシトレーディング
Tel. 078-581-2482
https://jamesheeley.jp/