＜現在　タージ・マハールの庭園より＞

昨日、アグラの町に着きました。そして今、美しい庭園からこの手紙を書いています。

愛する妻ムムターズ・マハルのために造った霊廟は、実に22年もの歳月をかけたそうです。私があなたに会えなくなってから過ぎた時間も22年。今、私がこの場所にいることにも、不思議な縁があるのかもしれないと思ってしまいます。

早朝、神秘的なブルーから淡いピンク色になるタージ・マハール。朝陽に染まりゴールドに輝き始め、夕暮れには真っ赤に染まります。時刻と共に表情を変える姿を見て、あなたの怒った顔、泣いた顔、嬉しそうな顔を思い出しました。

今夜は満月です。大楼門と霊廟の間にある4本の水路が交わる、天国をあらわず池が、きっと青く染まるでしょう。私はその池にそっと御札を浮かべます。パープルハイビスカスの香りのベールが、永遠のロマンスを伝えてくれるはずです。御札が水に溶け、歴史の窓が開く時、この手紙があなたに届くことを祈って。

＜過去　バビロンの空中庭園より＞

この庭からは街をすべて見渡せます。高くくみ上げられた水が橋を伝い流れ落ち池へ流れ、初夏の雨とともにグリーンヴァーベナのかがやくようなシトラスノートが香気を放ち、私を涼やかな気持ちにさせてくれます。メディア王国から嫁いだ私が国を思い出せるようにと、あなたが造ってくれたこの庭は、私のこころを穏やかに彩っています。

先代が無くなられた後も、あなたは精力的に遠征を繰り返し、その度に私は無事を祈り眠れぬ日々を過ごしてきました。私との婚姻はアッシリアの王都ニネヴェを陥落させるための同盟を見据えたものでした。それでも、私を大切にしてくれたあなたに、深く感謝しています。ゆえに、私も最大限の愛であなたを支えたいと思いました。

しかし、あなたが去った後のこの国はどうなるのでしょうか。ユダ王国も反乱を起こしたと聞きました。あなたならしっかりと抑えてくれるでしょうけれど、息子のアメルが同じように出来るのかと思うと気がかりでなりません。

イシュタルの門をくぐり、勝利の女神がこの宮殿へ常に朗報を届けてくれることを願います。いつの日か、私たちの日々の営み、美しい庭園、門から続く大通り、すべては歴史の中に消えてゆくのでしょう。この手紙を未来の誰かが見つけたのなら、不安など杞憂だと笑い飛ばすでしょうか。

あなたと共に見ることができる未来には、限りがあります。それでも私たちの想いは永遠であると信じたいのです。

＜未来　アルハンブラ宮殿の庭園より＞

グラナダの丘から吹く風は、今もオレンジの木の香りがすると言われています。赤い城という名の宮殿は、広大で美しいオレンジの木で溢れる庭園や壮麗な建造物を携え、レコンキスタにより無血開城となった後も、美しすぎて壊すことができなかったという伝えが本当のように思えます。だって、2220年の今も、こうして残っているのですから。

私たちの星は、幾度も困難に立ち向かいました。環境は乱れ、土地も人間も減ってしまった。しかし、今もまだ滅ばずに守られているのは、いにしえの重なる想いが盾となっているような気がします。

これから100年後の今も、夜明けの光に照らされたオレンジの木と、ネロリや花々のパウダリックな香りに包まれていたいです。まばゆい輝きを放つ未来を、私たちは必ず叶えます。だからどうか「今」に真剣に向き合ってください。地球を守るために。

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