CheRish Brun.(チェリッシュブラン)

好きと心地よいがつくる、私らしく楽しい暮らし

燃えさかれ、または一匙の儀式

59 views

<有り余るもの>

<有り余るもの>

白く細い脚をぶらつかせながら、少女は秋の夜の海辺で燃える火を眺めていた。手に握りしめたクローブとマンダリンの皮を炎にパッと投げると、芳香を放ちながら焼け空中で一瞬煌めき、天に召されてゆく。これは私の儀式。

17歳。まだまだ子供だと判断される歳。大人の中では子供のふりをしていた方が楽だから丁度いい。多少の過ちも基本は寛容に受け止めてもらえる。冷めてる子と思われているから、”たまの”笑顔と素直さが効く…なんて腹黒すぎるか。

半年前、財産を残して父が死んでからというもの、母の近辺は常に騒がしい。金に群がる男たちを母から引き離すのは私の仕事だ。自分に言い寄りながら17歳の娘に手を出すような阿呆な男は、母もさすがに追い出すしかない。そんな時、私は子供のふりをする。”あちら”が勝手に夢中になったふりをする。

彼女は唇に漆紫のカラーを乗せると、口角をキュッと上げ、海沿いを歩き始めた。年齢というブランド。少しひ弱だけど細長い手足、夜風がさらうサラリとした黒髪。男を惹きつけるものは、まあ有る方じゃない?誘惑という業務に対応できるレベルには。

<有り余るもの>

焼けるようなスパイスの香りは、私の銃口から放たれたもの。
ジャングルで黄金を巡って散った男たちの残像を美しく飾って、ジンジャーブレッドの甘い香りに寄り添いながら、土埃の中で私は優雅にお茶を飲むの。

誰にも憧れない。誰にもなりたくなんかない。
私は私。唯一無二の存在。
彼女の目に映る炎は、香りを宿しながら燃えさかっていた。


<月夜のランデブー>

足音を忍ばせながら、月夜を歩く。
暗闇に幾ら忍ばせても、足許からカサカサと葉擦れの音がしてしまうのは秋のせいだ。柔らかく、どこか棘がある匂い。豊かなのに、何処か寂しい。待ち合わせまであと5分。

鬱蒼とした森の少し開けた小路に出ると、月の光がやんわりと僕を照らし出す。

<月夜のランデブー>

光に照らし出された僕の姿は美しいのだろうか。または醜いのだろうか。晒されて初めて気づくことは多い。真実の姿は時に痛々しく、何よりも尊い。

僕は目を閉じて感覚を済ませ、甘い香りの方角へ導かれる。ようやく出会えた。
月夜に咲くテュベルーズよ、君に愛されるため僕は生まれてきた。


<醒めない白昼夢>

父の本はどうしてこうも重いのだろうか。本棚から拝借して、自分だけの秘密の場所(体育倉庫)に持っていくにも一苦労だ。少年は好奇心でいっぱいになりながらページを目繰る。

<醒めない白昼夢>

あぁそうだ、彼女の物語はどうなったんだっけ。子供のふりをした大人かぁ、クールでカッコイイな。僕とは大違いだ。ピカピカのロールスロイスのようなツヤのバイオレットカラーのネイルに、堂々とした態度。僕はちょっとした嘘ですら先生に見抜かれちゃうのに…。

この前読んだ、ある男の詩なんて結末にびっくりだ。だって、男は自分が人間じゃないことに気付いていないんだから。恋の相手は勝手だけど、僕なら花は嫌だなぁ…クラスのAちゃんとか…。

窓の外から差し込む秋の木漏れ日がちらちらと揺れ、彼はウトウトと次第に夢の世界へと誘(いざな)われる。訪れる静寂。

不意に銃声のようなバーン!という大きな音が弾けた。彼の手から落ちた古書が床に叩きつけれたのだ。古書から匂い立つは白昼夢の香り。夢物語のサンダルウッド。

飛び起きた彼は、自分の鍛え上げた胸板を見下ろしそっと目を覆う。
「何だよ、子供の頃の夢か…。」安堵の溜息をつき一呼吸。そして、隣りに眠る少女の裸の肩を見てギクリとした。唇に僅かに残るバイオレットカラー。倒れて床に散ったネールラッカー。

<醒めない白昼夢>

「ねぇ、2階に居るの?」
不意に階下から女の声がして、足音が近づく。パッとドアが開かれた。空中の埃と甘い余韻の香りは、一瞬で舞い上がると火の粉のように燃え、やがて静かに落着した。まるで何の騒ぎも無かったかのように。
少女は眠ったふりをしながら、口角をキュッとあげた。

いつか何処かで読んだ物語。これは現実の世界?それとも夢の中?
床の上に忘れ去られた本には流麗な飾り文字”Santal majuscule”。
誰かの遠い記憶とわすれもの。


【掲載製品】
セルジュ・ルタンス
http://www.sergelutens.jp/

「バテムデュフー/炎の洗礼」オードパルファム(50mL ¥13,000+税)
「ファーアレーブル / 13.De Profundis 深淵からの叫び」(¥ 8,500/レフィル\ 4,000+税)
「オンクルプールレレーブル / 5.Dark Earth/大地の陰影」(¥7,000+税)
「ラック プールレ ゾングル 3.De Profundis /深淵からの叫び」(¥6,000+税)
「シダー オードパルファム」(50mL ¥13,000+税)
「サンタルマジュスキュル オードパルファム」(50mL ¥13,000+税)




Author's Profile

美容ジャーナリスト/香りのストーリーテラーYUKIRIN
ナチュラルコスメとフレグランスのエキスパートとして、
「香りで選ぶナチュラルスキンケア」や、「香りとメイクのコーディネート」など提案する他、
香りから着想される短篇小説を連載中。

媒体での執筆・連載の他、
化粧品のディレクション、イベントプロデュース、ブランドコンサルティングなど幅広く活動している。
Follow :
Share / Subscribe
Facebook Likes
Tweets
Hatena Bookmarks
Pinterest
Send to LINE

当サイト上の全ての掲載情報は、あくまでも掲載時点における情報であり、時間の経過により掲載情報が実際と一致しなくなる場合等があります。