ローズは、フレグランスの歴史上で決して欠かせない王道の花であり、調香師以外にも、植物学者やガーデナーなど、多くの専門家たちを魅了し続けている。女王のような香りの存在感は主役級でありながら、時には良質なバイプレイヤーに徹することもでき、多くの表情を持っていることは言うまでもないだろう。
私にとって、ローズの香りとの出会いは、幼少期(小学校低学年)に遡る。小瓶に入ったローズの香水(今思えばコロンくらいの軽いものだったと思われる)を、使い方も分からないまま蓋を開けては少し匂いを試して良い気分になっていた。その後、中学生になった頃には素足にローズの香りのボディジェルを塗って登校していた。よく「何だかいつもいい匂いがする」と同級生や先輩から言ってもらって嬉しかった記憶がある。
身に纏うものとしては、ほのぼのとしたローズの思い出であるが、高学年になると妖艶でグラマラスなローズの魅力や、少し残忍な香りのするローズのイメージなどを、音楽を通じて知ることになる。野に咲く可憐なローズではない、ローズの深い顔を知り、やがてそれはフレグランスの世界での多面的なローズの顔につながっていった。
可憐でキュートなローズ、エレガントで貞淑なローズ、大胆でミステリアスなローズ、ダークでアーシーなローズ…。その印象はどこまでも、万華鏡を覗くように変わり続ける。この香り『メモワール ド ローズ』は、新たな夜明けを思わせるピュアでフレッシュなローズの香りである。誰しもの心の奥に眠っているような、ローズの咲く風景を感じさせてくれる。
ところで、フレグランスが好きな人は、軽い香りから複雑な重い香りに惹かれるようになるものだ。その後、質の良い軽い香りが、どれほど難易度高く創られているかという事実に気づき、次は質の良い難易度の高い香りに向かって追究していく傾向にあると思う。その工程をアップダウンのように繰り返していくのだが、シンプルこそが難しいことに、途中ではたと気づくのはファッションと似ているかもしれない。
シンプルであればあるほど、香料の質も問われ、調香師の技術も難易度が高くなる。「シンプル=つまらない香り」という固定概念で判断されぬよう、ちょうど良い「削ぎ落し」が必要になる。鮮やかでみずみずしい朝摘みのローズのミニマルな香りを、マスターパフューマーのクリストフ・レイノーは儚さと幸福感をもって完成させた。彼は「飾りすぎないように細心の注意を払った」と言う。
儚さに過度な装飾は不要であり、逆に肌の内側へ溶け込んで一体化するようなメルティな部分、纏う人間への没入感が必要だ。その人の懐かしい記憶と融合するほどに。ラルチザン パフュームらしさと、クリストフ・レイノーらしさがきちんと融合した、至高のシンプル。透明感溢れる新しい喜びに、皆が心をときめかせるだろう。
【掲載商品】
■ラルチザン パフューム
「メモワール ド ローズ オードパルファム」
各100mL 各¥22,550
ブルーベル・ジャパン株式会社 香水・化粧品事業本部
Tel. 0120-005-130(受付時間 10:00~16:00)
https://www.latelierdesparfums.jp/