CheRish Brun.|チェリッシュブラン

私のごきげんな毎日を送るライフスタイルマガジン

香りとアートの親和性

魔法の香り手帖
E2001 EAST GARDEN

今年で3回目を迎えた「マイ・ファースト・アート展」が、今年も無事終了した。「マイ・ファースト・アート展」とは、伊勢丹新宿店本館6階に在るアートギャラリーにて、伊勢丹新宿店を愛する顧客による公式サポーター「イセタニスタ」たちの中でも、特にアートが好きなメンバーが個々に推薦したい作家に作品を作成いただき、ジャンルを超えて一同に展示するという前代未聞の企画展だ。作家への最初の声かけから、「イセタニスタ」が行い、すべて無償で取り組んでいる。作家は現場で作品が売れれば収益となり、全体の取りまとめや実際のアート展示は百貨店側が担当する。

私は2回目から参加させてもらったが、ほぼ1年がかりのプロジェクトだ。次回実施するか決定したら、推薦アーティストの候補を考えていく。私が参画した理由は、実は以前から「香水✕何か」を取り組んでいきたいと考えていたからだった。香水は香水だけでも十分に世界があり、日本の香水市場もこの数年で大きく拡大した。しかし「毎日香水を纏っています。年に何本も購入します。」という人がどれほどいるだろうか。私の両親も、夫も、親友もそうではない。毎日シャンプーをする人、毎日リップを塗る人、それに比べたら足元にも及ばないだろう。

香水を知らない人にも、香りを試すきっかけを作りたい。その思いが「香水✕何か」、つまり異文化との組み合わせだった。その組み合わせは、音楽、紅茶、チョコレート、ファッション、美容、お酒、文具、インテリアなど、さまざま考えられる。しかし、すでに取り組まれているものも多い。特に私が長く在籍した音楽業界と香階の組み合わせをやってみたいと思っていたが、近年は音楽と香りを組み合わせたテーマのブランドも増え、香階をアレンジしたブランドも登場した。そこで、「香水✕アート」を実現したいと思うようになった。しかし、基本は「イセタニスタ」はアーティストを推薦するのみであり、私のディレクションする「香水✕アート」の展示を行うこと自体が許されるのかと心配だった。しかしながら、伊勢丹新宿店も「イセタニスタ」も受け入れてくださった。感謝しかない。

先日、地引由美さんの会員制香水コミュニティで「香水はアートか?」という質問に答える機会があった。香水が好きな人はアートだと思う人が多いかもしれない。しかし、私は50%:50%だと考えている。アート性の高い香水は多く存在し、調香師もアーティストと捉えられることもある。しかし同時に、香水は肌にまとう化粧品の類でもあり、消耗品でもあるのだ。誰かにとってはアートで、誰かにとってはコスメで、誰かにとってはデオドラント。そんな曖昧なものだと考えている。だからこそ、数多の香水の中から、私自身がアートだと思える香水ブランドで、声をかけたいアーティストの作品とマッチしている香水を選ぶ必要がある。そもそも、アーティストが「香水の香りを試して、そこから作品を創る」提案に、まず乗ってくださることも大前提でもある。ブランド側には主旨をきちんと説明し、許諾を取らねばならない。実は昨年は、本国が特定のアーティストとコラボをしないというルールで許諾のとれなかったケースもあった。慎重に、熱意をもって私は交渉をしているが、すんなりと決まらないこともある。

今年は、イラストレーターの「おおたうに」さんと、画家の「RIO UMEZAWA」さんに声をかけ、お二人とも私の提案を「面白い!やってみたい!」とすぐに快諾してくださった。「おおたうに」さんと言えば、やはり女の子を描いた作品が特徴的だ。私はインスタを見ていて、以前素敵だと思っていた作品があり、このアートにぜひとも合わせたいと思ったのが、THOUSAND COLOURSの香水「M1700 SMOKE FLOWER」だ。この香りは、前身ブランドTOBALIの頃から人気で、江戸時代にその名を轟かせた花魁の女性をテーマにしている。この香水無しに「おおたうに」さんとのコラボレーションはありえないと思うほどだった。結果的にその提案が通り、実現できた。また、同ブランドのいくつかの香りを、うにさんならではの女の子のキャラクターで描いてもらうことができ、これも新鮮だった。

「RIO UMEZAWA」さんには、最初から具体的なブランドを連想していなかった。というのも、作風が一定の路線ではなく、まるで別の作家のように感じるほど、いろいろなタイプの作品を生み出されていたからだ。そこで思いついたのが、私が10代の頃から好きな言葉「Elastic」だった。弾力性のあるという意味だが、伸縮自在という意味も持っている。私自身は10代から、常に伸縮自在、変幻自在で居たいと思っていた。誰も私を1つの顔で捉えることはできない、時にはこんな顔を持ち、時にはあんな顔を持つ。他人になんて自分のイメージを決められてたまるか。そう思ってきたのだ。数年前に香りやネーミングのディレクションに携わった、ヘアスタイリング剤ブランドの「Moii」では「エラスティックモード」という名前の商品にしたこともあるくらいだ。

RIOさんの様々な作風は、まさに固定概念にとらわれては彼女の本質を見抜けないのではないかと感じた。まさに「Elastic」だ。そこで、固定概念にとらわれないブランドを選びたいと考え、「EDIT(h)」へ声をかけた。「EDIT(h)」は、元々朱肉メーカーが自社の朱肉に使っていた香りをもとに、香水ブランドを立ち上げている。そして最初に作られたいくつかの香りを、まるで音楽のリミックス版を創るように、アレンジした香りも存在する。まさに変幻自在だ。「EDIT(h)」の香りは、日本人調香師と、海外の調香師の作品があるが、RIOさんはなんと日本人調香師の香りには和紙を使い、海外の調香師の香りにはキャンバスを使ったとのことだった。うーん、この発想もまさに「Elastic」で素晴らしい。

マイ・ファースト・アート展の期間中、偶然にもTHOUSAND COLOURSの方と会場でお会いすることができた。その時、「E2001 EAST GARDEN」という香りをプレゼントいただいた。私はこの香りを試すのが初めてだったのだが、翌朝纏ってみてあまりに良い香りで驚いた。白百合と白菊がとても高貴で、菖蒲の花の凛と美しい立ち姿も感じさせてくれる。東の国の美しい<洗練>の香りということだが、和の慎ましやかな印象と、アジアの強さのようなものが感じられた。あぁ、またこの香りにはどんなアートが合うのだろうと考えずにはいられない。

今後、私は「香水✕何か」をもっと取り組んでみたいと思っている。特に「香水✕紅茶」は実現したい。何か良い機会が作れたら嬉しい。そんなこんなで、今年ももう終わろうとしている。今年は体調に悩まされながら、多くの仕事を成し遂げた激動の1年だった。来年早々に、いろいろなプロジェクトやイベントの準備に入っていくので、ぜひ2025年のYUKIRINにもお付き合いください。皆さん、良いお年を。

E2001 EAST GARDEN

【掲載商品】
■THOUSAND COLOURS
「E2001 EAST GARDEN」
(25mL ¥9,350 / 100mL ¥17,600)
https://shop.colours.co.jp/pages/tc_top

美容ジャーナリスト香水ジャーナリストYUKIRIN
ナチュラルコスメとフレグランスのエキスパートとして、
「香りで選ぶナチュラルスキンケア」や、「香りとメイクのコーディネート」など提案する他、香りから着想される短篇小説を連載中。

媒体での執筆・連載の他、化粧品のディレクション、イベントプロデュース、ブランドコンサルティングなど幅広く活動している。
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