エッセイ～ある愛の香りについて

先日、TOBALIより「イノセントラブオードパルファン」という新作の香水が発売となりました。TOBALIといえば、日本らしい情緒を感じさせるような、「秘める美」をテーマに香りづくりをされているブランド。新作の「イノセントラブ」を初めて知った時、正直、”ちょっとTOBALIらしくないな”と私は思いました。

純粋な愛、ピュアな愛、とても分かり易いワードです。これまでTOBALIより、特に第一弾として発売された香りのラインナップでは、薄い障子の向こうで息をひそめて誰かを待っているような秘めた美を感じていたため、今作に違和感があったのだと思います。音楽に例えると分かりやすいかもしれません。凝ったおしゃれなタイトルと捻りやウィットの効いた音楽で人気のミュージシャンの新曲が「イノセントラブ」だとしたら、ちょっと驚きませんか？

しかし、この香りのバックボーンをお話伺って、なるほどと思いました。今、世界は未曾有の事態に直面し、傷ついて鬱鬱とした気分を抱えている方も少なくありません。こんな状況に慣れていく自分も確かにいます。それでも、想定外の事態が起きたり、去年には思ってもみなかった出来事が生まれたりしています。そんなに状況下で、心が疲れないはずがないのです。疲れて当たり前です。

「イノセントラブオードパルファン」のテーマは「無邪気さに秘める気高さ」。それは究極にシンプルな愛。世界を優しい愛で包む香りなのです。ネロリとジャスミン、一見「洋」の香りであるイメージですが、TOBALIならではのジャポニズム・ウッディノートと組み合わせられていることで、イマジネーションは世界に広がりながらも、足をついている場所、つまり根の部分は日本にあるぞという印象を感じます。

もはやジェンダーフリーという言葉は常識ですが、まさにジェンダーだけでなく、国籍も年代も文化も国境も超えた、普遍的な「イノセントラブ」です。水墨画の世界から、色彩豊かな水彩画の世界へ。TOBALIが進む足跡を感じられました。

今夜は温かいおふとんと、この香りにくるまれて眠ることにします。愛に包まれた夢をみることでしょう。