今年に入ってまだ40本くらいしか映画を観ていませんが、私の中で2015年暫定1位の映画がこの『セッション』です。ラストの約10分間の演奏は圧巻で、 久しぶりに観終わった後、興奮しすぎて放心状態になりました。
本作は、名門音大に入学したジャズドラマーのニーマン(マイルズ・テラー)と伝説の鬼教師フレッチャー(J・K・シモンズ)との狂気のレッスンが繰り広げられる人間ドラマ。一部ではドラマー版『ブラックスワン』とも評されています。
高みを目指す究極の師弟関係を見事に演じ切ったシモンズとマイルズ。ふたりが演じたフレッチャーとニーマンは決して誰もが共感できるキャラクターではありませんが、プロの世界にはリアルに存在すると思います。
フレッチャーはニーマンに優しく声をかけたかと思えば、指導を通り越したパワハラまがいの言葉で罵り、ビンタでテンポを矯正する、スパルタ教師。良い人なのか悪い人なのかわからず、振り回されます。本年度のアカデミー賞ほか賞レースの助演男優賞を総ナメしたシモンズの演技は本当に恐ろしく、ニーマン同様私の魂も終始、彼に支配されました。
吹き替えなしでドラム演奏に挑んだマイルズも負けていません。かじる程度にしかドラム経験がなかったとは思えない彼のスティックさばきは素晴らしく、役に劣らず猛特訓をした賜です。また、フレッチャーにスカウトされた時の有頂天のニーマンと、追い詰められた時のボロボロのニーマンの心情の演じ分けも見事でした。
本作の監督と脚本を手がけたのは、弱冠28歳のデイミアン・チャゼル。「戦争映画やギャング映画のような音楽映画を作りたい」と意気込む彼の思惑通り、自身の高校時代の経験を元にしたストーリーは、序盤のスポ根から一転し、終盤はスリリングなサスペンス展開へと突き進みます。若き天才は、破格の低予算のなか、19日間という短期間でこの傑作を生み出しました。
心地良いジャズ音楽と、心地良いとは言えないけれど息もつかせぬストーリー、そして俳優たちの緊迫感のある演技。ジャズ音楽やスポ根に興味がない女性は多いかと思いますが、なかなかこんな傑作には出会える機会はないと思います。限界を超えた時に起こるラストの壮絶なセッションは本当に必見です。そして観たら最後。この興奮を誰かに伝えずにはいられなくなりますよ。
セッション
4月17日(金)TOHOシネマズ新宿他全国順次ロードショー
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