終わりの見えないコロナ禍で、私は過去から現在までを振り返り、未来について考える時間が増えました。そんな自分と向き合っている時に出会い、心に沁み入った映画が、スペインの名匠ペドロ・アルモドバル監督の最新作『ペイン・アンド・グローリー』です。
母の愛を描いた感動作『オール・アバウト・マイ・マザー』(2000)でアカデミー賞外国語映画賞を獲得し、『トーク・トゥ・ハー』(2003)でアカデミー賞脚本賞を受賞したアルモドバル監督。本作は70歳という円熟期を迎え、自らの命を注ぎ込んだ初の自伝的な作品で、人生の深みに分け入るテーマと、独自の感性による美しい映像で、人生を最終章まで楽しもうと、再び前を向く男の人生讃歌です。
脊椎の痛みから生きがいを見出せなくなった世界的映画監督サルバドール・マヨ(アントニオ・バンデラス)は、心身ともに疲れ、引退同然の生活を余儀なくされていた。そんななか、昔の自分をよく回想するようになる。子供時代と母親、その頃移り住んだバレンシアの村での出来事、マドリードでの恋と破局。その痛みは今も消えることなく残っていた。そんなとき32年前に撮った作品の上映依頼が届く。思わぬ再会が心を閉ざしていた彼を過去へと翻らせる。そして記憶のたどり着いた先には……。
アルモドバル監督を投影させたサルバドールを演じるのが、アントニオ・バンデラス。1982年にアルモドバル監督の『セクシリア』でデビューして以来、共に歩んできた監督の「今回ほど一体感を覚えたことはない」と語るバンデラスの演技は、新境地を開いたと称えられています。そしてアルモドバルのミューズ、ペネロペ・クルスも母親役として出演。たくましく懸命に生きた女性を力強く演じています。
そしてとくに私が目を奪われたのは、色鮮やかでポップなインテリアです。アントニオ演じるサルバドールは、美しい家具やアートに囲まれて暮らしています(ちなみにこのセットで使われている半分近くのインテリアはアルモドバル監督の私物だそう)。この背景に関してアルモドバル監督は「アントニオのキャラクターは孤独の中に生きている。彼を囲む要素や背景に焦点が合っていれば、孤独感がさらに際立つだろう」と語っています。かつては仕事で成功を収めるも、近年は心身に痛みを抱えているという、この2つのファクターを背景や映画タイトルとして表しているのも素晴らしくニクい演出です。
人生100年時代の昨今、人生の最終章まで楽しむ術を見せてくれる『ペイン・アンド・グローリー』。ペドロ・アルモドバル監督もアントニオ・バンデラスもペネロペ・クルスも歳を重ねたからこその魅力が存分に詰まっている作品です。そして、ラストシーンが本当におしゃれなので、最後までご注目を!
『ペイン・アンド・グローリー』
全国順次公開中
https://pain-and-glory.jp/
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