『パンズ・ラビリンス』(2004)、『パシフィック・リム』(2013)のギレルモ・デル・トロ監督が50歳を超えたからこそ描けたという、切なくも愛おしいファンタジー・ロマンス映画『シェイプ・オブ・ウォーター』。
昨年大ヒットした『美女と野獣』の美しいヒロインと野獣の姿に変えられた王子様との王道のおとぎ話も好きなのですが、本作の孤独な中年女性が半魚人に恋をして強く逞しく変わっていく姿に鳥肌が立ち、これぞ究極のロマンティックなおとぎ話といえる結末に心が震えました。
1962年、アメリカ。政府の極秘研究所に勤めるイライザ(サリー・ホーキンス)は、秘かに運び込まれた不思議な生きものを見てしまう。アマゾンの奥地で神のように崇められていたという“彼”(ダグ・ジョーンズ)の奇妙だが、どこか魅惑的な姿に心を奪われたイライザは、周囲の目を盗んで会いに行くようになる。
子供の頃のトラウマで声が出せないイライザだったが、“彼”とのコミュニケーションに言葉は必要なかった。音楽とダンスに手話、そして熱い眼差しで二人の心が通い始めた時、イライザは“彼”が間もなく国家の威信をかけた実験の犠牲になると知る。イライザは“彼”を救うため、国を相手に毅然と立ち上がるのだが……。
6歳の幼きデル・トロ監督が観た映画『大アマゾンの半魚人』(1954)に端を発した本作では、監督自らがオファーしたという絶妙なキャスティングが実現。ヒロインのイライザを演じるのは、『ブルージャスミン』(2013)でアカデミー賞にノミネートされたサリー・ホーキンス。溢れんばかりの感情を、言葉を発することなく全存在をかけて表現しています。そして、“彼”に扮するのは、デル・トロ監督の『ヘルボーイ』(2004)でエイブ・サピエンを演じて絶賛されたダグ・ジョーンズ。監督の期待に応え、人間の女性でも“彼となら恋に落ちる”と確信できる、魅力的かつ官能的なキャラクターを生み出しました。
また物語や役者だけでなく、撮影技術や美術も素晴らしい。息を呑むほど美しい冒頭とラストの水中のシーン。実はあれ一滴の水も使っていないのです。ドライフォーウェット(疑似水中撮影技術)によってまるで水中にいるような幻想を作り出し、スローモーションで撮影しています。ただ、バスルームのシーンだけは本物の水を使っているそうです。
3月4日(日本時間3月5日)に授賞式が行われる第90回アカデミー賞では、作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞、音響編集賞、録音賞、撮影賞、衣装デザイン賞、編集賞、美術賞、作曲賞の最多13部門ノミネートされている本作。作品賞にモンスター映画がノミネートされるのは、映画史上初とも言われており、前回紹介した『スリー・ビルボード』との一騎打ちはどちらに軍配が上がるのでしょうか?
不安な世界情勢を抱える現代と重なる1960年代の冷戦下を舞台に、社会からはみ出したアウトサイダーたちの権力への反乱もユーモラスかつサスペンスフルに描き、心躍る人間ドラマとしても見応えがある『シェイプ・オブ・ウォーター』。誰も観たことのない異種間の究極の愛の物語に溺れてみては。
シェイプ・オブ・ウォーター
3月1日(木)全国ロードショー
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