思春期の高校生の恋愛ドラマにはあまり興味がないのですが、最近、私は泣いて感動して再度観たくなったアニメ映画が2本あります。ひとつは現在大ヒット中の新海誠監督作『君の名は。』。相変わらずの映像美は勿論ですが、高校生の男女の身体が入れ替わるなんて100万回使われたネタから、よくもまあ、あんな予想ができない新領域の壮大なドラマにしたなと驚かされました。
そして、もうひとつ多くの人に薦めたいアニメ映画があります。それが今回紹介する映画『聲の形』です。『君の名は。』のようなエンタメ大作と比べると、地味な印象ではありますが、少年少女の再生の物語を優しく丁寧に描いた傑作です。
ガキ大将だった小学6年生の石田将也は、知覚障害を持った転校生の西宮硝子へ無邪気な好奇心を持つ。稚拙なからかいが原因でふたりはすれ違い、分かり合えないまま、硝子は転校し、将也は周囲から孤立してしまう。それから5年が経ち、高校生へと成長したふたりは再会し、伝えたい想いを胸に、距離を縮めていく。そして小学校の同級生たちに会いに行くが…。
原作は大今良時さんの同名漫画(全7巻、累計発行部数250万部)で、まっすぐに「いま」と向き合う少年少女の姿を等身大に描き、「このマンガがすごい!2015」オトコ編第1位、第19回(2015年)「手塚治虫賞」新生賞受賞した名作です。
このベストセラーコミックを、多くの良作を輩出している京都アニメーションに所属する山田尚子監督がアニメ映画化。将也が心を許していない人物の顔には☓(バツ)が付いているという原作そのままの漫画的な演出と、タイトルでもある“聲の形”をアニメ映画的な音の演出で表現しているところは素晴らしく、コミック7巻分を上手く映画としてまとめているのも秀逸です。
障害者といじめという難しいテーマで、正直、小学生時代の描写は辛いものがありました。でも観ているうちに、聴覚障害にフィーチャーしているのではなく、人間ドラマに重きを置いて作られていることがわかります。ふたりはお互い小学生時代のトラウマを抱え、将也は孤独や自己嫌悪と闘いながら日々を過ごし、硝子はコミュニケーションの困難や失敗を経験してきたせいで、愛想笑いが癖になっています。私は、かつての同級生たちのリアルな言動に驚愕や共感、恐怖を感じつつ、一体どんな結末に持っていくのだろうと最後まで目が離せませんでした。
ラストは、決して安易な恋愛ものにしていないところも、未熟ながらも主人公たちが成長しようとしているところも心地よく、私は好きです。この秋は、映画『聲の形』の不器用で、もどかしい少年少女たちの切ない青春ドラマに浸ってみてください。
余談ですが、最近も好きな漫画原作の実写映画をいくつか観てきましたが、残念ながら期待を超える作品は皆無。よって、本作のように名作漫画は実写化せずにアニメ化でお願いします!
聲の形
9月17日(土)ロードショー
http://koenokatachi-movie.com
(C) 大今良時・講談社/映画聲の形製作委員会