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私のごきげんな毎日

ロスト・ドーター

シネマキアート

近年、映画監督としての才能を発揮している女優たちの活躍が目覚ましい! グレタ・ガーウィグ『レディ・バード』(2018)、オリヴィア・ワイルド『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2020)に続く、見事な映画監督デビューを果たしたのがマギー・ギレンホール。今回は、彼女が監督・脚本・製作を務めた『ロスト・ドーター』をご紹介します。

予告編(英語)

ひとりギリシャの海辺へバカンスに訪れたレダ(オリヴィア・コールマン)。ビーチでのんびり過ごしていると、騒々しいイタリア系アメリカ人の大家族がやってくる。幼い娘を連れている若い母親ニーナ(ダコタ・ジョンソン)から目が離せなくなったレダは、自分が未熟な母親として恐怖と混乱でピリピリしていた頃の記憶に押しつぶされそうになる。そして、衝動的に起こした“ある行為”が引き金となり、レダは心の中の奇妙で不気味な世界へ迷い込む。若い頃(ジェシー・バックリー)に母親として尋常ではない選択をしたこと、そしてその選択がもたらした結果に対峙することを余儀なくされる……。

裏返すと腐っているフルーツ、部屋に飛び込んでくる瀕死の蝉、背中に落下する松ぼっくりなど、冒頭から不穏なメタファーが散りばめられ、レダが起こした“ある行為”で緊張感も強いられ、マギー・ギレンホール監督が仕掛けた、何かが起こりそうなサスペンスタッチの重厚な雰囲気に終始引き込まれます。

俳優ジェイク・ギレンホールの姉であり、『セクレタリー』(2002)、『ダークナイト』(2008)、『クレイジー・ハート』(2009)などで女優として高い評価を得ているマギー・ギレンホール。エレナ・フェッランテの小説を基に、実生活で二児の母親でもあるマギーが、社会が女性に求めるステレオタイプの母親像への問いかけ、母性に欠ける母親の罪悪感や葛藤、そして母親=聖母である必要はないと、レダの現在と過去が錯綜する巧みな演出を通して描いています。ベネチア国際映画祭(脚本賞)、ニューヨーク映画批評家協会賞(第一回作品賞)、ボストン映画批評家協会(新人映画人賞)など数々の賞レースを既に受賞し、アカデミー賞では脚色賞にノミネート。

このセンシティブなテーマを体現するキャストが素晴らしい! 現在のレダを『ザ・クラウン』でエリザベス女王を演じたオリヴィア・コールマンが、若い頃のレダをジェシー・バックリーが引けを取らない凄まじい競演で、レダという女性の背景をふたりで作り上げています。その結果、同一人物として重なって見え、今年のアカデミー賞に揃って主演女優賞・助演女優賞にノミネート。また、老いてもなおセクシーなエド・ハリス、マギーの実生活の夫でもあるピーター・サースガードが脇を固めます。

本作は共感できる・できないが分かれる作品。ただ、母親と女性、育児とキャリアの両面に立たされた人間の複雑で多面的な感情や行動が巧妙に描かれている良作です。女性だけでなく、ぜひ男性にも観て感じてほしいと思います。そして、敢えてレダを説明し過ぎないことで、不気味な余韻を残すラストシーンに仕上げた、マギー・ギレンホール監督の次回作が楽しみです。

ロスト・ドーター

『ロスト・ドーター』
Netflixにて配信中
https://www.netflix.com/title/81478910

フリーランス エディター・ライター國方 麻紀(くにかたまき)
香川・丸亀出身、東京・吉祥寺在住のエディター・ライター。
女性誌『ELLE JAPON』『VOGUE JAPAN』のウェブエディター、ウェブサイト「GLAM」「tend」「BRASH」統括編集長を経て、現在はフリーランスに。好きな映画のジャンルは、バイオレンスや時代劇、B級など。
「このコラムを読んで普段観ないようなジャンルの映画にも興味を持ってもらえたらうれしいです!」
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