私はラブコメは好きなのですが、どうも泣かせようと作っていたり、それを全面に宣伝しているラブストーリーが苦手です。今回紹介する『博士と彼女のセオリー』もタイトルやチラシの文言から察するにそうなのかなと、あまり期待をせずに観ました。ところが、全くお涙頂戴に描かれておらず、ただ全力で生きて試練に立ち向かう夫妻の素晴らしい人間ドラマでした。(原題『The Theory of Everything』のほうが全貌を表している感じがします。)
本作は、現代宇宙論に大きな影響を与えた“車椅子の天才物理学者”スティーヴン・ホーキング博士とその妻の半生を描いています。21歳の時に全身の筋肉が萎縮する難病ALSを発症し余命2年と宣告されたホーキング博士と、それにひるまず共に生きると決めた女性ジェーン。夫妻の葛藤や苦悩のエピソードをきめ細かく捉えながらも、ホーキング博士のユーモアなキャラクターとポジティブな人生観で、勇気を与えてくれる光あるストーリーになっています。
終盤、夫妻はある決断をするのですが、ジェーンに感情移入していた私はそういう愛の形もあるんだと、心が揺さぶられました。実際、映画では描き切れない困難がもっとあっただろうし、ジェーンの努力と苦労は計り知れません。いい時も悪い時も含めて、夫妻の生き方にとても感動しました。
また、ホーキング博士を演じたエディ・レッドメインが、本年度のアカデミー賞主演男優賞を受賞しました。ALSの発症によって徐々に身体の自由を奪われていく過程を緻密な役作りでホーキング博士になりきっているエディは神がかっています。受賞直後の興奮を抑えられないスピーチも印象的でしたが、その後アカデミー賞受賞をケンブリッジ大学のホーキング博士に報告に行ったそうです。ケンブリッジ大学といえば、エディもこの名門校の出身で、イートン校時代には、先日初来日で話題になったウィリアム王子と同級生でした。インテリで、演技も歌も上手くて(『レ・ミゼラブル』参照)、昨年末に結婚して、順風満帆のエディ。次回は『レ・ミゼラブル』のトム・フーパー監督最新作『The Danish Girl(原題)』(2015年全米公開予定)のトランスジェンダーの画家を演じるとのこと。これまた難しい役柄ですが、彼がどう演じるのか楽しみです。
そして、本作で肉体的な試練にさらされたエディに対し、精神的な試練にさらされたのが、ジェーン役のフェリシティ・ジョーンズ。余命宣告を受けた男性との結婚を選ぶ強い女性ですが、自分の力だけで夫を支え切れなくなった時は激しい苛立ちにさいなまれる、複雑なジェーンの心理を熱演しています。アカデミー賞では惜しくも受賞ならずでしたが、当日は「アレキサンダー・マックイーン」のパールをあしらったプリンセスシルエットのドレスで登場し、フェリシティの清楚な魅力が引き立っていました。今後は『スター・ウォーズ』のスピンオフ第1弾作品(2016年全米公開予定)の主演がほぼ確定しているとのことなので、この旬な女優から目が離せません。
久しぶりに若手の演技が光るヒューマン・ラブストーリーに出会えて、観終わった後は胸が熱くなりました。すぐに故郷・香川県に住んでいる母にすすめたのですが、香川県では本作の上映予定がないそうです…残念。大ヒットして、拡大公開しますように!
博士と彼女のセオリー
3月13日(金)TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー
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