日本が世界に誇るアートディレクター増田セバスチャンが初監督に挑戦。
作品は1979年にサンリオが製作した人形アニメーション映画『くるみ割り人形』をリクリエイトした。
世界の”カワイイ”アイコンであるキティちゃん率いるサンリオと、日本のポップカルチャーを世界に広めた増田セバスチャンの協力タッグだ。
増田セバスチャンが『くるみ割り人形』にかける思いを余すとこなく訊いた。
『くるみ割り人形』はまさに運命的な作品
ー今回、初めての映画監督のオファーがあった時、どのように思われましたか?
増田セバスチャン監督(以下、増田):
僕は千葉県松戸市の出身なんですけれど、僕が子供の頃、松戸にはサンリオ劇場というものがあったんです。
僕は小学校2年生の時に偶然にも旧作の『くるみ割り人形』上映していて見ていました。
当時は子供が多い時代だったので、特撮物やアニメなど色々な子供向けの映画があったんですけれど、僕はませた子供だったので、そういう子供向けの映画を見ても「こんなのには騙されないぞ!」って思っていました。
でも、『くるみ割り人形』だけは違っていて、何かはわからないけれど、僕の心にとても残ったんです。
だから、その作品を自分がリクリエイトすることにすごくプレッシャーを感じましたね。
実際にリクリエイトすることが決まってから、元の脚本を読んだんですけれど、元の脚本には僕が10代の頃に強烈に影響を受けた寺山修司さんの名前があったんです。脚本に携わっていたんですね。それで、運命的なものを感じました。
ー寺山修司さんがかかわっていたから、心に残っていたのかもしれないですね。
増田:
そうですね。寺山修司さんはいつも時代に対してのメッセージを発信する作家だったので、子供向けの作品にもメッセージを散りばめていました。公開時、子供だった僕はそのメッセージから色々なものを感じていたんじゃないかと思います。
僕はアートディレクターなので、作品を作れる自信はあったんですが、それよりも当時の大先輩方が発したメッセージを現代に伝えることが大切なんだと思いました。
まさに運命だと思いまいしたね。
当時僕が見た色を再現しようって思いました
ーリクリエイトするにあたって映像はご覧になったんでしょうか?
増田:
もちろん、旧作は見ました。
大きなスクリーンで見たのですが、その時に舞台を見ているような気がしたんです。
僕は映画を作るのは初めてだけれど、舞台はいくつも作ってきているので、だったら舞台を作るように映画を作ろうと思いました。
ー旧作をご覧になった時に、具体的のどのような映像にしようという案は浮かんだんでしょうか?
増田:
とにかく脚本を洗いざらい読み直しました。
サンリオの辻社長が作った旧作の脚本と、寺山修司さんが書いたそのさらに前の脚本に、僕が新たに付け加え、そして映像を編集する作業にはものすごく時間がかかりました。
僕が当時見たくるみ割り人形はすごくカラフルだったイメージがあったんですが、実際に見てみると色がくすんで見えたんです。子供の頃って未来に対してすごく希望を持ってワクワクしている。だから子供は実際には見えてない色も見えるんですよ。
でも、大人になるにつれて、色々な経験をして、色々なものを見て、子供の頃に見えていた色が見えなくなってしまったんじゃないかと思ったんです。
だからリクリエイトする『くるみ割り人形』は当時僕が見た色を再現しようって思いました。
基本的にいつも考えるのは、世界でどうやって戦えるかってこと
ー私も映画を拝見しましたが、今までの3D映像とは違う感覚を感じたんですが。
増田:
実は僕は3D映画があまり得意じゃなかったんです。ハリウッドの3D映画って迫力勝負!という感じのダイナミックなものが多いじゃないですか。見ていると酔ってしまうことが多かったんですよね。
それで、日本人の感覚ならではの3D映画ってあるんじゃないかな?って思ったんです。
箱庭の中に顔を突っ込んで覗くような感覚のものができないかなと思って、3D監督の三田さんにそういうものができないか相談しました。
僕が基本的にいつも考えるのは、世界でどうやって戦えるかってことなんです。
ハリウッドの真似をしていても勝てないわけですよ。だからハリウッドと真逆の発想でやったことが新鮮に感じていただけたのでは?
でも、実はハリウッドの3D映画より飛び出てるんですけれどね(笑)
日本人の技術力は海外に負けていないんです。どうやって戦うかはオリジナルなんですよね。
あとはどこの引き出しを開けるかなんです
ー今回、ある意味では日本の”カワイイ”を代表するサンリオと増田さんとのタッグでしたが、一緒にお仕事をされていかがでしたか?
増田:
旧作の『くるみ割り人形』が作られた当時、辻社長がやりたかったことって、ハリウッドに負けない映画を作ることだったんだと思うんです。
当時キティちゃんはまだ駆け出しでしたが、今やキティちゃんは世界のスーパーアイコンですよね。僕も日本の原宿カルチャーを世界に広げる活動をしているので、ある意味ではオールジャパンとしてのタッグだなって思います。
ー世界中にいる日本のカワイイカルチャーを好きな方にはたまらないですよね。キティちゃんの映画を作る・・・なんてことは?
増田:
いろんなお題の中でメッセージを発信することが好きなので、そういうお話があれば是非にとは思いますが、次は実写でオリジナルを作りたいです。
案は常に何百種類とあるので、あとはどこの引き出しを開けるかなんです。
ー今回の作品の中でご自身が特に思い入れのあるシーンはありますか?
増田:
冒頭のシーンにとても思い入れがあります。
冒頭のシーンは世界観のつかみだと思うんです。だからすごくこだわりました。
作品の中で一番最初に声を発するのは由紀さおりさんなんですが、それもとてもこだわりました。由紀さおりさんのラジオに呼んでいただいたことがあるんですが、すごく素敵な声だったので、今回の婆やにぴったりだと思い、すぐにお願いしました。
あと、柱時計も今回新たに作ったシーンの1つなんですが、そこからくるみ割り人形の世界観に入り込むという仕掛けを作ろうと思いこだわりました。
アナログってものすごいんだぞって伝えたい
ー今回、リクリエイトするのにどのくらいの作業をされているんでしょうか?
増田:
昔のフィルムを使っているのが80%です。
でも、手を入れたという意味では100%ですね。
全シーンでカラーも変えていますし、追加撮影もしています。
絵コンテを全て書いて、撮影し、アニメーションを作り・・・手の入れ方は膨大です。
今回、全て実物を使いアナログな形で製作したのでかなりの時間をかけました。
今の時代、CGでなんでも作れてしまうけれど、クリエイターの先輩方が当時、膨大な時間をかけて『くるみ割り人形』を作成しました。当時は1日に3秒分しか作れなかったんです。
でも、アナログの力こそ今の時代に必要なんじゃないかと思って、僕は今回あえてアナログな手法で作りました。
ものを作ることは自由にならないってことなんですよ。一生懸命作っても思い通りにならないからこそ、エネルギーがあるんだと思うんです。
僕はあえて、今の若い世代にアナログってものすごいんだぞって伝えたいと思ったんです。
ー今回、どのような層を狙って映画を作られましたか?
増田:
初めてのことだったので、どこかの層をターゲットにして作るということは難しいと思いました。でも、もともと僕の活動上メインターゲットにしやすい世代は、10代後半〜20代前半の女の子。
彼女たちは大人になるギリギリの瞬間を求めてやってくるんですが、その子たちにぐさっとくるものを作れる自信はありました。
今回、もちろんそういう子たちには喜んでくれたけれど、試写会の後に一番反応してくれるのは、30代、40代の男性だったんです。
映画を観終わった後に、キャピキャピしながら感想を言ってくれるんですよ(笑)。
今、そのくらいの年齢の男性たちは子供心を残しつつ大人になっている人たちが多いと思うんです。その反面、コンサバティブというか、保守的な部分があって、原宿に集まるような子たちは俺には関係無い、若い世代がしているファッションは自分には関係無い、と思っている。
でもこの映画を通して、あの子たちがなんで原宿に集まっているのかが、感じられたんじゃないかなって思うんですよ。
日本のポップカルチャーが世界に通用している意味を
ーこれから映画をご覧になる方に向けてのメッセージをお願いいたします。
増田:
この映画は、日本のポップカルチャーが凝縮されています。
単純にぜひ3Dで見てに来ていただき、遊園地でアトラクションに乗った感じで楽しんでいただければと思います。
あと、ぜひ親子で見ていただきたいです。CGでゴージャスに作られた映像とはまた一味違う人の手で作られた暖かみの有る人形達、ドラマチック音楽、カラフルで楽しい映像を楽しんでいただき、映画を観終わった後に、ぜひ親子で日本のポップカルチャーが世界に通用している意味を一緒に考えてもらうことがえればと思います。
そしてそれが日本の未来に繋がるのかなって思っていますことを願っています。
『くるみ割り人形』
<3D/2D>絶賛公開中!
公式サイト:kurumiwari-movie.com
(C)1979,2014 SANRIO CO.,LTD.TOKYO,JAPAN
監督:増田セバスチャン 3D監督:三田邦彦
キャスト:
有村 架純/松坂 桃李
藤井 隆/大野 拓朗 安蘭 けい 吉田 鋼太郎/板野 友美(友情出演)/由紀 さおり(特別出演)/広末 涼子/市村 正親
テーマ曲:
きゃりーぱみゅぱみゅ 「おやすみ -extended mix-」
作詞・作曲・編曲・中田ヤスタカ(CAPSULE)ワーナーミュージック・ジャパン
制作プロダクション:キュー・テック
企画・制作・配給:アスミック•エース/製作:サンリオ
ハローキティ40周年記念作品
この冬、あなたを包み込む
まったく新しい感動の「極彩色ミュージカル・ファンタジー」
みにくい人形、けれど彼女にとっては命だった。
ある雪の夜。少女クララは、大切な“くるみ割り人形”をネズミの大群にさらわれてしまう。
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邪悪な魔法を解くための「人形とネズミの戦い」に巻き込まれたクララは、
“くるみ割り人形”に隠された悲しい秘密を知る。
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やがて“いのち”と引き換えにしても<守りたい>と思ったものとは―――?