CheRish Brun.|チェリッシュブラン

ちょうどいい私、ちょうどいい暮らし。心地よく、ごきげんな毎日へ。

ビハインド:今年いちばんの香水

魔法の香り手帖

日本の香水アワードには、日本フレグランス協会が毎年10月1日(香水の日)に発表してきた「フレグランス大賞」がある。2010年から2020年まで10年間続き、パンデミックの影響でその後は実施されていないが、来年再始動が待たれるところだ。

私が個人的に2014年にスタートさせた「ベストフレグランス大賞」は、今年第12回目を迎えた。2014年当時、個人でベストフレグランスの記事を作成するプロは非常に少なく、SNSで香水について発信しているユーザー自体もとても少なかったと記憶している。始めた当時は、自分が今年良かったと思う香水をランキングにして伝えようというライトな発想で、2014年のTOP2と、ボディケアTOP2、ルームフレグランスTOP1を発表しただけにとどまっていたが、翌年2015年からは大賞としてTOP1と、メゾンフレグランスやファッションフレグランスなどのジャンルでもセグメントし、内容を厚くしていった。

よく間違われるのが、私個人が「この香りが好き!」という意見で選ぶ賞ではないということだ。この1年に日本国内で発売された香水を可能な限り全てリストアップし、香りを確かめられるものは店頭などでも確かめ、ジャーナリストの観点から客観的に、香りのタイトル、ストーリー、使用香料、ビジュアルなどが全てマッチしているかを判断している。特にTOP3に選ぶ香りは、その香りを嗅いだ瞬間にストーリーが目の前に広がるような感覚を感じられるか、そして私以外の大衆にもその感覚が伝わりやすいかを考えて選んでいる。

2025年のTOP1、つまり「ベストフレグランス2025 ゴールド賞」に選んだのは、ERAMというフレグランスブランドから今年発売された「29 別人」という香りだ。2023年にポーラ・オルビスホールディングス(HD)内の社内ベンチャー制度から誕生し、2024年11月に現在の形へリブランディングを遂げたのがERAM。百人一首を元に四季や心情を表した香りを展開していて、香りのタイトルに数字が表記されているのは百人一首の番号だ。

百人一首29番の短歌の、「初霜がおりた庭の白菊が雪と見分けがつかず曖昧になっている」という内容からインスピレーションを受けて制作され、昨日までは降っていなかった雪が、朝には庭一面に積り、いつも見慣れていていた情景が、いつも見慣れていた情景が、境界線の曖昧な別の世界へと変わっていくことを表現している。

私はこの香りを秋に初めて試した時、その光景が目の前に鮮やかなほどに広がるのを感じた。雪の光景の香り、しかも日本の雪の光景が広がった。「この香りは凄い」と鳥肌が立った。スペアミントといぐさが和の冷たさを感じさせてくれることに加え、スッと感じさせるためにメントールではなくフィスクールという香料を使っているそうだ。そこはかとない冷たさ、雪を踏みしめて歩く小さなギシッという足音、私は学生時代を過ごした札幌での塾からの帰り道を思い出したのだ。

ブランドが考えたストーリーを確実に感じさせながらも、それを超えて個人の思い出まで引き出すほどの香り。今年、これを超える香りはないかもしれないと、誰にも言わなかったけれどすぐに感じた。ゴールド賞に相応しい香りだ。

年々香水への意識が高まっていることもあり、私のXでの「ベストフレグランス大賞」の告知は、13万インプレッションを超えた。多くの人が「ベストフレグランスって何だろう?」と興味を持ってくれたのだと思う。しかし、あくまでこれは私がジャーナリストとして選んだものであり、選ぶ人によってその結果は千差万別だ。あなただけのベストフレグランスを考えてみる。そんな年の瀬も、きっと悪くない。


【掲載商品】
■ERAM
『29 別人(Betsujin)』
(30mL ¥13,200)
https://eram.jp/

美容ジャーナリスト香水ジャーナリストYUKIRIN
ナチュラルコスメとフレグランスのエキスパートとして、
「香りで選ぶナチュラルスキンケア」や、「香りとメイクのコーディネート」など提案する他、香りから着想される短篇小説を連載中。

媒体での執筆・連載の他、化粧品のディレクション、イベントプロデュース、ブランドコンサルティングなど幅広く活動している。
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