CheRish Brun.|チェリッシュブラン

ちょうどいい私、ちょうどいい暮らし。心地よく、ごきげんな毎日へ。

香水の名前と、想像力

魔法の香り手帖
PERFUMER H『LEATHER』

香水の名前は、アートや書籍のタイトルのようなものだと私は思う。その香水を表す最も適した言葉が、そこには添えられている。香水の名前には、大きく分けて2つの方向性がある。使用している主な香料をタイトルにするような、例えば「ローズ&ゼラニウム」といったタイトルをつける方向性。もう一つは詩的な表現でつける、「モーニングデュウ」のようなタイトルだ。

「ローズ&ゼラニウム」という香りならば、おそらくミドルノートにローズとゼラニウムを使用しており、全体的に軽めのフローラルノートであるのではないかと推測できる。「モーニングデュウ」という香りならば、早朝に朝露が光るバラなどの花びらのある光景のイメージが浮かび、太陽のきらめきを感じるシトラスノートや、みずみずしさのあるフローラルノートが使われているだろう。

私の好きな香水ブランドのひとつ「PERFUMER H」。ミラー ハリスを立ち上げた調香師、リン・ハリス氏が現在手がけているブランドだ。初めて「PERFUMER H」の香水を試したとき、上記で述べた2つの方向性がどちらに当てはまらず驚いた。同ブランドに「LEATHER」という香水があるがそのタイトルから想像した香りとは、全く違うものだったからだ。

主に使われている香料を記すパターンタイトルであれば、レザーの香りが主役となり、ミドルからベースにかけて入っていることを想像し、ウッディアンバー系の香料と組み合わせられているだろうと予想する。甘い系統に転ぶか、クールな印象になるか、どちらかのレザーノートを想定した。

ところが、ムエットで試すと、クリーンで柔らかな甘さを持つパウダリックかつ深みのある香りに感じた。その印象の理由は、トップのフランス産ラベンダーとイタリア産ベルガモットのクリーンさ、そして中国産アイリスアブソリュートとトルコ産ローズのパウダリックな甘さ。深みの部分はトップのバーチタールから、ラストのウッディノートが点で結ばれて感じるように思う。実際に肌に纏ってみると、私はよりパウダリックさが強調された。これは私の肌が元来持っている肌の香りがややパウダリックなためであろうが、絶妙なクリーンさが心地よく、ミニサイズを使い切ったところだったので、今回は大きなボトルを選んだ。

「PERFUMER H」は、「LEATHER」の香り以外にも同じ現象が起きる香りが多い。「SUEDE」にはやや青々しさも宿るフローラルノートを感じるし、新作の「ROSE WITH INSECT」は、緑豊かな森の中で花の精気と共に深みへ消えていくような香りに感じる。以前、リン・ハリス氏に直接、私はその理由を尋ねてみたことがある。

「あなたの創るPERFUMER Hの香りは、タイトル通りに感じないことがあるのはどうして?」

その問いに彼女は「その香りの名前は、香りそのものを表現しているのではなく、それが存在する”風景”を香りで表現しているから。」と答えた。

つまり、「LEATHER」はレザーの香料を主役に据えたから名付けたわけではなく、レザーの何かがそこにある風景を描いた香りなのだろう。個人的にはそこにあったレザーは、レザージャケットではなく、祖母から譲り受けたヴィンテージレザーソファーなどを想像したが、それはあくまで私の空想の話だ。シンプルなタイトルから、詩的な風景を想像させる。それが彼女の表現方法なのだろう。

あなたは、香水の名前から、何を想像するだろうか。
どうしてその名がつけられたのか、想いを巡らせながら纏ってみると、見慣れた世界の中に新しい視点が見つかるかもしれない。

PERFUMER H『LEATHER』

【掲載商品】
■PERFUMER H
『LEATHER』
(50mL ¥29,700)
https://www.perfumerh.com/

美容ジャーナリスト香水ジャーナリストYUKIRIN
ナチュラルコスメとフレグランスのエキスパートとして、
「香りで選ぶナチュラルスキンケア」や、「香りとメイクのコーディネート」など提案する他、香りから着想される短篇小説を連載中。

媒体での執筆・連載の他、化粧品のディレクション、イベントプロデュース、ブランドコンサルティングなど幅広く活動している。
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