
子供の頃に感じた香りは、今も不意によぎると懐かしく感じるのは、多くの人に起こる出来事だろう。
大阪大学の調査によると、子供時代に体験した「におい」は記憶に残りやすいという。人工物に比べ、自然物のにおいの方が残りやすい。大人になると人工物のにおいが溢れる生活が増え、自然のにおいを感じる頻度が減るが、子供時代は日常生活に自然が溢れていた人が多いため、現在でも自然のにおいの方が記憶しやすいという。
また面白いのが、香りと思い出の結びつきにおいて、「いい思い出」との結びつきが多いという調査結果もある。半面「嫌な思い出」と結びつく場合は、その時に「嫌な気分になった」事実と相関がみられるそうだ。つまり、「あぁ、この香り懐かしいな」と思う感情そのものは、たいていの場合「いい思い出」と結びついているということになる。
フローリスから発売となった新作の香り「FL オードパフューム パープルメモワール」は、フローリス創業家5代目のマリー・アン・フローリスと、ジェームズ・ボデナムが、1800年代後半から50年以上暮らした、ロンドンの郊外にあった魅力的なアイヴィー・ロッヂにオマージュを捧げて創られた。
現在は、9代目のエドワード・ボデナムがフローリスを続けているので、5代目となると当然ながら、当時エドワード氏がそのロッヂに出入りをしていたわけではないが、セピア色の写真で今も残る、ジェームズ・ボデナムとアイヴィー・ロッジは、緑豊かな印象を与えてくれる。広大な庭園を有し、穏やかな風に揺れるラベンダー、貴重なコリアンダーのハーブガーデンに囲まれたアイヴィー・ロッヂで過ごす淡い夏の記憶が、現代になって香りへと姿を変えたのだ。
私の子供時代の記憶にある香りにも、ラベンダーの香りが存在している。そのせいか、私には存在しないアイヴィー・ロッヂの香りが、なぜか少しだけ懐かしく感じで驚いた。アロマティックなフローラルノートだが、ベースにカカオやトンカビーンの甘さや、クリーミーなサンダルウッド、センシュアルなラブダナムがあることで、淡い夏のひと時を過ごした「生活」が息づいている。
自分の思い出の香りに浸るのも良いが、他人の思い出の香りの中に、自分の思い出が蘇るのも素晴らしい瞬間だ。他人の懐かしさに、自分の郷愁を見つけてみる。そうして香りは多くの人の心に、「いい思い出」を運んでくる。

【掲載商品】
■フローリス
「FL オードパフューム パープルメモワール」
(100mL ¥37,400)
https://www.floris.jp/






