
先日、SNSユーザーが発見した某メディアに掲載されたインフルエンサーの執筆記事で、「香水オタクのおすすめする香水●選」という内容があり、掲載されていた香水が初心者向けのものが多かったため、それは「香水オタクと言えるのか?」というちょっとした物議を醸した。これは記事を見る側の感じ方、捉えた方によって全く逆の印象を受けるというユニークな事例に思う。
初心者向けのフェミニンな香りというと、例えばシャネルの「チャンス オー タンドゥル オードゥパルファム」や、Diorの「ミス ディオール シリーズ」や、ジョー マローン ロンドンの「イングリッシュ ペアー & フリージア コロン」、SHIRO「サボン オードパルファン」、メゾン マルジェラ「レプリカ」フレグランスの「レプリカ オードトワレ レイジー サンデー モーニング」のような定番品を思い浮かべる。実際その記事にも、上記に挙げた香りが登場していた。
しかし、香水好きユーザーにとっては「オタク」とは感じられないと思った人もいるだろう。私自身も当該の記事を拝見し、初心者向けの香水提案自体はとても良いものの、やはり「香水オタク」というタイトルの言葉には、少々違和感を感じたものだ。
実は、2024年に20~80代の男女に調査されたアンケートによると、香水の所持率は2~3本が約20%でもっとも多く、次が1本で13.8%、8本以上所持している人はわずか1%以下。つまり、8本以上所持しているだけでも、十分「オタク」と言えるように思う。そもそも「オタク」とは、特定の対象に熱狂的に取り組む人を指す言葉であり、そこに時間やお金を集中して費やすものであり、ロジック上では十分に「香水オタク」が書いた記事と言えるのだ。
では初心者向けの香水として、こんな香水がラインナップしていたらどうだろうか。近年のトレンドであるル ラボの「アナザー 13」や、バイレードの「ブランシュ オードパルファン」、ディプティック「オルフェオン オードパルファン」、エラケイの「ムスクK オードパルファン」。発売10日で3か月分の倉庫在庫が空になり、現在ブランド内人気No.2である、メゾン マルジェラ「レプリカ」フレグランスの「レプリカ オードパルファン ダンシング オン ザ ムーン」など。それらを「香水オタクが紹介する、最新の初心者向け香水」として構成したとしたら、おそらく「香水オタク感」が漂ったのではないだろうか。
つまり「オタク」はそもそもアンダーグラウンドな存在で、マニアックなものを独自の視点で紹介したり、推薦できるような印象がある言葉だ。そのため、謎の違和感を生み出したのだろう。10年前なら、ジョー マローン ロンドンもディプティックはもちろん、SHIROでさえも十分にマニアックな存在だったが、現在の日本ではフレグランスの王道ブランドにある。
ライターには資格がないため、自分自身が「美容ライター」だと名乗れば、当日からその活動ができるし、オタクもそうだろう。自称でいくらでも記事を書くことができる。香水を10本持っていればオタクと名乗っていいか?連載枠を持っていれば、プロのライターと名乗っていいか?同じくらい曖昧である。
そもそもプロとは何を基準にしているのか、国家資格の必要な職業以外は基本的に曖昧なものだ。ジャーナリストは何をもって、ジャーナリストとして合格になるのだろうか。線引きが曖昧だからこそ、自分はもっと努力せねばならないと気が引き締まる思いがした。
ところで、私が先日購入した香水は、フレデリック マルとAcne Studiosのコラボレーションによって生まれた「アクネ ストゥディオズ パー フレデリックマル」だ。昨年5月に発売され、私にとってはどちらも大好きなブランドのため、いつかは入手したいと考えていて、ようやく年明けて落ち着いた頃に、2025年の幕開け香水として購入することができた。フレデリック マルの香水は濃厚なため、普段は多くプッシュする私も、あまり多くプッシュしないことが多いブランドだ。この香りも2~3プッシュで十分に長く香る。
アルデヒドが主役となり、ローズとバイオレット、そしてオレンジがクラシカルに輝く。そこからピーチやサンダルウッド、バニラ、インセンスが、新しさと古き良き時代を融合させており、ラストのホワイトムスクは着心地の良い素材生地を彷彿とさせ、肌になじむ。纏っていると、上質なインナーを身に着けているような気分になる。この香りを選ぶのは、香水オタクや香水マニアだろうか?私は香水ジャーナリストとしてプロであることに日々努力しているつもりであるが、香水オタクかどうかは…結局のところわからない。私より本数を所持している人もいるし、私より香料に詳しい人も、新作に詳しい人も、海外ブランドに詳しい人も、いくらでもいるからだ。
つまり、プロもオタクも「自分でそれを名乗る覚悟」だろう。名乗った以上は、その世界と仕事を情熱をもって突き詰めて、精一杯努力していかねば笑われる。オタクにも覚悟が必要。そんなことを思いながら、私は今日も香水を纏っている。

【掲載商品】
■フレデリック マル
「アクネ ストゥディオズ パー フレデリック マル」
(50mL ¥38,500)
https://latelierdesparfums.jp/pages/frederic-malle