
香水砂漠と海外から言われていたほど、日本で枯渇していた香水市場が、業界の様々なオピニオンリーダーたちの活躍で、店舗や扱いブランドが増え、ユーザーもどんどん増えたこの数年。とはいえ、2025年現在も、日本全国から見ると、香水を頻度問わず使っている人は約30%程度にとどまっている。
日本で人気がある香調として以前から言われてきたのは、シトラスとムスクだ。シトラスは柑橘系とも言われ、レモンやベルガモット、オレンジ、グレープフルーツ、ライムなどの香りを指し、すっきりと清潔感のある雰囲気が、オンオフ問わず使いやすいと人気を得ているが、今回はムスクについて考えてみたい。
天然のムスクは、ジャコウジカの香嚢(コウノウ)を腹部から排除し乾燥させて得られる動物性香料になる。ジャコウジカの雄が自分の存在を周知し、雌を呼び寄せる匂いを発するとも言われている。しかし、現在はジャコウジカの捕獲が禁止されており、天然ムスクは貴重で高価すぎるため、現在香水に使われているのは合成ムスクがほとんどだ。アンブレットシードの植物性香料でムスクに近い香りを配合することもある。(植物性ムスクと書かれることもある) 皆さんも耳にすることが多いホワイトムスクは、天然のムスクの代替品として開発された合成ムスクで、天然ムスクと区別するために別の名前がつけられたそうだ。
ムスクは石けんの香りに近いと言われる。日本では古代より身体を清潔にすることが神聖とされ、清めや禊などの文化があり、また銭湯の普及から家庭の浴室には浴槽がついていることがほとんどで身体を洗うことが大好きである。そこに必ずある存在が石けんやボディソープであり、洗い上がりの清潔な匂い=石けんの香りと刷り込まれているように思う。またお風呂は夜に入る人が多いため、就寝前の落ち着きを連想させ、石けんの香りは日本人をホッとリラックスさせてくれることも考えられる。
しかし、天然ムスクはそもそも動物性香料であり、雄のジャコウジカが雌を呼び寄せている香りでもあるため、官能性も持ち合わせている。天然ムスクに含まれる大環状ケトン構造を有するムスコンという香気成分は有名だが、合成ムスクが主流になった今も、天然ムスクの代替のために合成でムスコンの香気を模倣した香りが多く存在している。その模倣が現代の化学技術で精度は高まり、天然ムスクと似た作用を持つほどになっているようだ。
ムスコンを含む大環状ムスクは、ある程度の配合量により女性ホルモンの活性化に影響を与えると言われ、合成のホワイトムスクに含まれる香気成分は若年層の女性の香りに似ているものが含まれている。となると、ムスクの香りの香水を纏うだけで、若々しく見せられ、女性らしさがUPできるという拡大解釈もできる。
実際にムスク香水の日本での一般的評価を見てみると、私は嫌いなワードだが「モテ香水」として人気とされていることが多いのは、上記の理由が背景にあり、自然とそういう存在に位置づけされているのだとすれば納得ができる。同時に「落ち着く」という印象を持っている人も多いが、これは石けんのような香りに似ていることから、お風呂やリラックスタイムを連想している背景が理由とみられ、同時に母性を感じさえることも考えらえるだろう。しかし、現代はジェンダーフリーで、香水も性別など関係なく愛されることが多い。メンズがムスクの香りを纏うと、どういった効果があるのかも、今後研究されたら面白いだろう。
そうそう、3月1日には新しいムスクの香水が登場する。イタリアのメゾンフレグランスブランド「NOBILE 1942」の20周年を記念し発売される、「ムスク・ノービレ 20」だ。人気の香り「ムスク・ノービレ」がリニューアル。ピーチの香りとシトラスノートに、フリージアとコットンフラワーのホワイトフローラルブーケが美しい。ミドルノートには新たにオスマンサスとチューリップの香りが加わった。ベースには包み込むようなホワイトムスクがコットンキャンディーやアンバリーノート、サンダルウッドと共にまろやかで甘い余韻を残す。
現代らしい柔軟性やしなやかなニュアンスと、どこかクラシカルな印象を併せ持つ香り。ムスクの香りについて思いをめぐらせながら、ぜひ試してみて。

【掲載商品】
■ノービレ1942
「ムスク ノービレ 20」
(オードパルファン 75mL ¥23,100)
https://forte-tyo.co.jp/shopping/brand-list/nobile1942/