CheRish Brun.(チェリッシュブラン)

好きと心地よいがつくる、私らしく楽しい暮らし

扇情のイニシエーション~後篇

ペンハリガン ザ フェイバリット オードパルファム

前回までのストーリーはこちら。

CRUEL CYAN(以下CC)を出た私と那須と曽根原は、朝食から営業している原宿のカフェで、これから調査すべき内容を洗い出すことにした。

「まずは那須くん。蓮沼道子さんと一緒にリゾートへ行った大学の友達たちに接触して。曽根原さん、それぞれの子の顔写真と名前を教えてくれる?彼女たちに会ったら、蓮沼さんがチェックアウト後~帰りのフライトまでの間、どういう行動をしたのかを聞き出して。」

「曽根原さんにも彼女たちは事実言わなかったくらいだし、見ず知らずの僕には警戒するね。」

「まぁね。手こずるなら “例の写真を持っているけど” と言って。」

「…そういうことだよね。順当に考えればそうだよな。」

「す、すみません…話についていけないんですが…」

と曽根原が遠慮がちに口を挟む。

「ごめんなさい、曽根原さんも気づいていると思っていたわ。蓮沼さんと旅行した女の子たちは、十中八九、あなたのグループが今回遭った目と同じことを経験したのよ。」

「あのアジア系の男たちにGARDENS(「萱草の水辺」参照)に連れて行かれたってことですか?」

「その可能性は高いと思うわよ。そして、何らかの理由で、他の女の子たちは解放されて、道子さんだけがその場に残る事態になった。自分たちのあられもない写真のデータと引き換えに、女の子たちは道子さんについて口をつぐむことにして、留学したと言い張った。もし、GARDENS自体がグルなら、道子さんが正式にチェックアウトしている履歴もウソの可能性が高い。」

「そんなことまで操作できるんですか…」

曽根原は絶句してうつむいた。

「ひかりさん、僕、早速彼女たちに接触してきます。後で連絡します。」

「頼んだわ。私は那須くんがGANRDENSで会った、自称公安の女の手掛かりを探してみる。」

「私はどうすればよいでしょうか。お二人の調査にご迷惑ですし、自宅に帰ろうと思いますが、ちょっと一人になるのが怖くて…。」

「じゃあ18時にはうちの事務所で待ち合せましょうか。明るいうちは、家に帰らずカフェとかでゆっくり過ごしていたら?」

「そうさせていただきます。ありがとうございます。」

明治神宮前の地下鉄入口で、私たちは解散した。私は千代田線の改札に入る寸前、何だかふと、理屈じゃない突き動かされる衝動で、曽根原が向かった副都心線の方を追った。何故そうしたのかは、自分でもわからない。

彼女は副都心線の改札前まで行き、数秒佇んだ後、改札には入らず歩き出した。長い地下通路を抜け、彼女はまた地上に出ると、表参道駅方向へ歩き出した。手頃なカフェを見つけると、そこへ入っていった。

考えすぎか。私は日差しが強くなってきた道を歩き出した。

青空

「前野さん、いや今は水野さん、あなたもこちらを信用していただきたいですね。我々が水木という女性を派遣して、あなたたちの行動を見張っていたと?」

「水木は存在しない?」

「私の知る限りは居りませんね。調べて頂いても結構ですよ。」

公安の糸田は表情をぴくりとも動かさずにそう言った。常に冷静で動揺することがない。組織のためなら違法なことも平気で行う男だろうが、今はウソをついている様子はない。

「それより水野さん、早く全貌を把握して我々に報告いただきたいですね。時間はあまり無いとお伝えしたはずです。今も着々と第二の”サロン”は出来上がりつつあるのですから。」

「おおよそは把握しているわ。」

恐らくはこうだ。

第一のサロンを私に潰されてから、政府関連組織は第二のサロンをどうすべきか考えた。都心で派手にやるより、地方で観光客を装ってゲストに来館させる方が目立ちにくい。仙崎あかねは言っていた。「このサロンは、男性オンリーでなく、ゆくゆく女性も可能な施設に使用と思っているの。そのためには女性のエナジーが要る。」と。第二のサロンは、若い女性を集めようとしたのではないか。

若い女性を集めるとして、直接サロンへ来館させ幽閉することのリスクは高い。第一のサロンで、那須は親友が行方不明になったのをきっかけに、彼を探すために私に連絡してきた。そして、最終的にサロンは私たちによって潰された。今度は行方不明になるポイントを海外へ移そうと考えたのだろう。

そこに選ばれたのが、あのリゾートホテルだ。ホテル側は、地元のマフィアや海外の有力者のためにGARDENSという、一般エリアとは隔離された桃源郷を作っていた。そのための運転資金に拉致する場所を貸し、第二サロン運営組織または組織が依頼した別の誰かであるアジア系の男たちに、リゾートへ遊びにきた若い日本人女性を誘わせた。

GARDENSへ女性を引き込んだ後は、薬など使い彼女たちに都合の悪い写真や動画を撮り脅迫したのだろう。そして日本に連れていき、第二のサロンで幽閉したのではないか。蓮沼道子がもし生きているとすれば、第二のサロンだろう。

公安は、第二サロン運営組織に力を持たれ過ぎると困る。ゆえに、早く計画の全貌を把握し潰したい。しかし彼らは、運営組織が親会社のような立場だ。自ら迂闊に動くことができないからこそ、私を使っている。

現段階でハッキリしていないのは、この絵図を誰が描いたかということ。そして、那須が潜伏したあの日のセブで、何故アジア系男性3名が撃たれたのか、誰が撃ったのか、そして、公安を名乗った水木は誰なのか、行方不明の女の子たちの安否だ。

「糸田さん、第二のサロン、場所は何処なの?」

「伊勢志摩です。」

「なるほど…“真珠貝”ね。第一のサロンの時と似ているの?」

第一のサロンで、1つ目の部屋には貝の中に入りエナジーを吸入する機械が使われていた。それをアレンジしていると考えられる。

「私も直接見ていないので分からないが…、できれば現場に行かずにサロンを閉鎖にもっていきたいと、私の上司は考えています。」

「そう、あくまで自分たちの手は汚さないってことね。」

様々な思惑が動いている。

ペンハリガン ザ フェイバリット オードパルファム

糸田と別れ、恵比寿のルノアールを出た時、那須からの着信があった。

「ひかりさん、彼女たちと会ってきたよ。僕のことは組織の人間だと思わせた。その方が早いから。蓮沼道子と一緒に旅行したのは3人だった。ひかりさんの想定通り、彼女たちは男たちにリゾートで声をかけられて、GARDENSに行ったせいでやはり写真を撮られていたよ。」

「やっぱりね。それで何があって3人だけ解放されたの?」

那須は、一旦息を整えるように話した。

「蓮沼道子の死だ。彼女も一緒に薬を打たれたものの、他の3人より体質的に効きが弱かったのかもしれない。意識が朦朧としている中で乱暴されかけて抵抗し、怒った男と揉み合いになり、男が突き飛ばしたせいで頭を打ったんだ。
女の子たちの大きな悲鳴や激しい物音で、騒ぎを聞きつけたGARDENSの従業員や周囲の部屋に宿泊している人間が、なにごとかと駆けつけてきてしまった。
男たちはパーティーをして羽目を外し過ぎたための騒音ということにして、蓮沼道子をクローゼットに押し込み、事実を隠ぺいしようとした。対外的に、その場でパーティーを終了し、女の子たちを解放しない訳にはいかなくなった。それで彼女たちは、写真データを拡散されたくなければ、このことは他言するなと言われたんだ。」

「それが、今になって那須くんが、写真データを拡散するぞと言ってきたら、パニックになったでしょうね。」

「脅かして申し訳ないとは思ったけど、彼女たちも、蓮沼道子の死の隠蔽に加担したことには違いないからね。」

「あなたって、妙にドライなところあるわよね。」

「…そうならざるを得ないもの、沢山見たから。ひかりさんもそうでしょ。」

私は何も言えなかった。

「とりあえず、情報ありがとう。あとはこちらで引き取るわ。18時に事務所で曽根原さんと待ち合わせているから、私から道子さんのこと、説明するわね。」

「僕は行かなくて大丈夫?」

「そうね…もし可能なら保管庫に来てくれる?何かあったら出てきてほしい。」

「了解。任せてよ。あとさ、ひかりさん僕のことはもう、龍哉でいいよ。」

私は事務所へ向かった。那須は私より11歳年下で、弟のようなものだ。以前の戸籍も職も失った私にとって、唯一の肉親のような存在。でも彼にも言っていないことがある、CCの出資者は公安であると。必要以上の情報を伝えないのは、彼を守るためだ。


約束の18時に事務所へ戻ると、ドアの前には曽根原が待っていた。

「ずっとカフェに居たの?」

「えぇ、原宿近くのカフェを3軒も周っちゃいました。」

カギを開けてドアを開いた。私はやっぱりそうかと心の中で呟いた。桂花烏龍茶を淹れて出した後、私は切り出した。キンモクセイの香りが殺風景な部屋の中で漂う。

「蓮沼さんのことが分かったわ。」

私は、蓮沼道子が殺された顛末を話した。曽根原は涙ぐみながら、

「もう…道子は居ないんですね。」とつぶやいた。

「残念ね…。でも、あなたには最初から関係ないんじゃない?」

そう言った直後、私は銃を曽根原へ向けた。朝、事務所を出る前に保管庫から一丁出しておいた。

「ひかりさん、ど、どういうことですか?そんな物騒なもの、やめてください!」

「もうお芝居はやめていいのよ、曽根原さん。曽根原も偽名かしら?」

暫し沈黙のまま、私たちは睨み合った。

「どういうことですか?」

「あなたが那須を利用してこの事務所へ来た夕べ、あなたは “高校の友達4人誘って”と言ったわ。でも、那須の報告では、チェックインしたグループは”4人の女の子”だったのよ。一人足りないわ。」

「言い間違えただけです。」

「私も最初はそう思ったわ。でも同じ違和感に気づいた那須が、”女の子たちは5人とも、薬を打たれてぐったりしてた”って試しに繰り返した時、あなたは否定することなく頷いていた。自分の芝居に気をとられてたのよ。あなたの中では5人なの。あなたを入れてね!」

曽根原はゆっくりと立ち上がり、私から目を離さずに対角線上を歩く。私の後ろには事務所のドア、曽根原の後ろには窓の位置を取った。

「そう、私はあの女たちの友達じゃないわ。私がGARDENS内の第二サロン分室を開いたんだもん。」

「なぜ、部下の男たちを殺したの?」

「蓮沼道子の失敗があって、ほとぼりが冷めるまでしばらくはGARDENSに誰も連れてくるなと言ってあったのよ。それがあいつら、欲望に任せて4人グループをまた連れてきた。私の言うことが聞けない部下なんて危険だわ。だから始末した。女たちはそのまま連れていきたかったから、殺さなかった。撃った男たちを片付けようとしていたら、あなたの部下がやってくるのが見えた。咄嗟に私は自分も黒い布を被って被害者のフリをしたの。」

「どうして私のところへ来たの。」

「第二サロンを探って潰そうとしている奴らがいることは、私も聞いてた。私はその実態を探るように言われた。」

「言われたって誰に?」

「あなたが探している女。」

「まさか…水木?」

「水木?あぁ、そういう名前で名乗ったんだ。あなたたちが、GARDENSへ調査に向かったと情報があったから、水木さんは、まぁ水木は偽名だけど、GARDENSで張っていたの。そこに現れたのが那須という訳。明らかに下っ端だと踏んだ私たちは、彼の動きを監視してチャンスがあれば消してしまおうと思っていた。彼が部屋に来た時、私が男たちを撃ったとは気づいていなかったから、そのまま芝居を続けてココの実態を探ることにしたというわけ。」

「今朝、私と別れた後、水木と会った?」

「あなたがつけてくるのが分かったから、一旦はカフェに入ったけどね。」

「そして、この事務所も調べた。」

「どうして入ったことが分かるの?元通りにしたはずだけどな。」

「ドアの下の方にごく薄い透明フィルムを挟んで出かけるようにしているのよ。さっき、それが落ちていた。留守の間にドアが開けられたとさっき気づいて、あなたがあえて私たちに接触してきたことを確信したわ。」

「残念ながら大したデータは無かった。ひかりさん、ここはただのお飾り事務所でしょ。バックには誰が居るの?」

「拉致された子の親族よ。」

公安組織の一部とは言えない。私は咄嗟にウソをついた。

「そんな規模の話じゃないでしょう。あなたたちの行動は素人のできる規模を超えているわ。現に銃なんて簡単に用意できている。女の子たちの拉致も男たちの管理も、私はこの国のためにやっていること。大きな目的のためには、どうしても犠牲が出てしまうものなの。私たちは正しいことをしてるんだから。」

「犠牲の出る目的なんて、正しいはずがないでしょう。あなたは、、」

私の言葉をさえぎって、曽根原は声を張った。

「悠里です。全部聞こえましたか?……わかりました、そうします。」

「音声、誰と繋がっているの?!」

曽根原はニヤッとほほ笑むと、後ろ手で窓を開け窓枠に飛び乗った。保管庫で話を聞いていた那須が、慌てて姿見の扉から飛び出してくる。

「なぁんだ、そこに部屋が繋がっていたのね。調べきれなくて残念。」

そう言うと、曽根原は飛んだ。彼女の香りだけがふわりと舞った。最期は嬉しそうに、笑顔だった。


「龍哉、今日の香り凄く素敵ね。」

「この香りね、サラ・チャーチルにインスピレーションを得て作られたんだって。香水売り場のお姉さんに教えてもらったんだよね。」

「何故その香りを選んだの?」

「サラ・チャーチルはさ、18世紀初頭に、スチュアート朝の最後の君主だったアン王女のフェイバリット、つまりお気に入りだったんだ。僕も、ひかりさんのフェイバリットでいられたらなと思ってさ。」

「もう十分、お気に入りよ。あなたはしっかり働いてくれているもの。」

「でも、曽根原悠里のこと、助けられなかったよ。」

「彼女は洗脳されていたわ。死すら喜びに感じる程にね。組織からすればいい手駒の扱いね、」

「悲しいね。」

私たちだって、公安の手駒に過ぎないわという言葉を飲み込んだ。

曽根原の投身により、私たちはその日のうちに事務所、保管庫、自宅とワンフロア全てを移転した。事務所の会話は全て糸田にも聞かれている。私と曽根原が会話し始めてから、糸田はすぐに状況を察知し、自分のチームを事務所へ向かわせた。曽根原の遺体はすぐに片づけられ、何もなかったように道路が清掃された。人通りのない裏路地だったのが救いだ。

第二サロンの組織が、この後どう出てくるかは分からない。しかし事務所の場所に保管庫もあったことは、曽根原がつけていたマイクを通してバレている以上、私たちが狙われてもおかしくはない。糸田は、まず今は姿を隠しましょうと言った。

このまま逃げていくべきか、それとも第二サロンへ乗り込むべきか。曽根原をコントロールしていた人間を知りたい、そう思ってしまう。

「ねえ、サラ・チャーチルってさ、晩年に従妹に立場をとられちゃうの知ってた?お気に入り除外よ!」

「えっ…。」

固まった那須を見て、私は久しぶりに声をあげて笑った。

ペンハリガン ザ フェイバリット オードパルファム

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100mL 各¥22,5000(税込)
ブルーベル・ジャパン株式会社 香水・化粧品事業本部
Tel. 0120-005-130(受付時間 10:00~16:00)
https://www.latelierdesparfums.jp/

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Author's Profile

美容ジャーナリスト/香りのストーリーテラーYUKIRIN
ナチュラルコスメとフレグランスのエキスパートとして、
「香りで選ぶナチュラルスキンケア」や、「香りとメイクのコーディネート」など提案する他、
香りから着想される短篇小説を連載中。

媒体での執筆・連載の他、
化粧品のディレクション、イベントプロデュース、ブランドコンサルティングなど幅広く活動している。
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