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私のごきげんな毎日

ブルーに生まれついて

シネマキアート

私はどんぴしゃの“イーサン・ホーク世代”です。眉間のシワが年々深く刻まれようが、ユマ・サーマンと離婚して浮気相手のナニーと再婚しようが、無条件に応援したくなる俳優のひとり。イーサンと聞いてもピンとこない若い方にちょっと彼の説明をすると、14歳の時に『エクスプロラーズ』(1985)で(故リバー・フェニックスと一緒に)スクリーンデビューした後に学業に専念し、『いまを生きる』(1989)で映画界に復帰。その後の恋愛映画『リアリティ・バイツ』(1994)と『恋人までの距離』(1995)を、当時高校生だった私はドキドキしながら何度も繰り返し観たものです。

また監督、小説家、脚本家としても活躍しているイーサン。『恋人までの距離』の続編『ビフォア・サンセット』(2004)と『ビフォア・ミッドナイト』(2013)では脚本を手がけ、その3作すべてが傑作という稀有なシリーズを経て、ここ最近は、かつてのイケメンポジションから、渋い曲者的なポジションでノリに乗っており、再ブレイクしています。『パージ』(2013)、『6才のボクが、大人になるまで。』(2014)、『プリデスティネーション』(2014)、『マグニフィセント・セブン』(2017年1月27日公開)どれも面白くておすすめしたい作品です。そんなイーサンが伝説のトランペッターを演じる最新作『ブルーに生まれついて』が、タイトルもストーリーも音楽も素晴らしすぎるので、紹介したいと思います。

1950年代のウエストコースト・ジャズシーンを代表するトランペッターにしてシンガーのチェット・ベイカー。黒人アーティストが主流のモダン・ジャズ界において、あのマイルス・デイヴィスをも凌ぐ人気を誇ると言われ、一斉を風靡。甘いマスクとソフトな声で多くのファンを魅了したが、麻薬に身を滅ぼし過酷な日々を送っていた……。本作は一人の天才ミュージシャンの転落と苦悩を描くとともに、ある一人の女性との出会いによって再生する姿を描いたラブストーリー。

破滅的でありながら、純粋で愛すべきチェットの人物像を完璧なまでに体現したイーサン。「僕がチェット・ベイカーの何が大好きかというと、彼がキャリアにおいて基本的にはよい評価を一度も得られなかったという事実だね。芸術家はいつも理解されたいと思っているが、時には理解されないものなんだ。僕らはそのことから刺激を受けることができると思う」とコメントしています。

イーサンは6カ月に及ぶトランペットの集中トレーニングを受け、劇中で感動的な歌声も披露。本作で主演男優賞にノミネートされると批評家が絶賛するほどの迫力の演技を見せています。イーサンが歌う「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」をはじめ、「レッツ・ゲット・ロスト」「虹の彼方に」「ボーン・トゥ・ビー・ブルー」など数々の名曲が、しっとりと本編を彩っています。なかでも「アイヴ・ネヴァー・ビーン・イン・ラヴ・ビフォー」を歌う壮絶なラストシーンは圧巻です。思わず声が出てしまいました……切ない、痛い、でも素晴らしい!

イーサンの新たな代表作となった『ブルーに生まれついて』。彼の持ち前の繊細な演技力とナイーブな存在感に酔いしれて。

ブルーに生まれついて
11月26日(土)Bunkamuraル・シネマ、角川シネマ新宿他にて全国ロードショー!
http://borntobeblue.jp/
(C) 2015 BTB Blue Productions Ltd and BTBB Productions SPV Limited.ALL RIGHTS RESERVED.

フリーランス エディター・ライター國方 麻紀(くにかたまき)
香川・丸亀出身、東京・吉祥寺在住のエディター・ライター。
女性誌『ELLE JAPON』『VOGUE JAPAN』のウェブエディター、ウェブサイト「GLAM」「tend」「BRASH」統括編集長を経て、現在はフリーランスに。好きな映画のジャンルは、バイオレンスや時代劇、B級など。
「このコラムを読んで普段観ないようなジャンルの映画にも興味を持ってもらえたらうれしいです!」
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